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◇松村さん−牧水の科学する心
◇黒岩さん−対照的な啄木と比較
第24回若山牧水賞を受賞した松村由利子さん(59)=沖縄県在住=と黒岩剛仁さん(60)=東京都在住=の記念講演会が13日、延岡市本小路のカルチャープラザのべおかであった。また、この日は、日向高校(久保田一史校長)を訪問し、1、2年生373人を対象に講話。生徒の作品を講評した。
延岡市での記念講演で松村さんは、自然科学と文学の親和性に着目。「自然科学について詠まれた多様な歌から『センス・オブ・ワンダー(自然やSF作品などに触れることで受ける不思議な感動)』が感じられる」として「牧水の科学する心」をテーマに、23首を取り上げて解説した。
このうち「ややしばしわれの寂しき眸(ひとみ)に浮き彗星(すいせい)見ゆ青く朝見ゆ」について、「1910年4〜5月に地球に接近したハレー彗星を詠んだ歌で、繰り返しの表現が牧水らしい。当時、大きな話題になっていたので、牧水も興味を持って明け方の空を見上げていたのでは」と話した。
「美しく縞(しま)のある蚊の肌に来てわが血を吸ふもさびしや五月」では、「まさにセンス・オブ・ワンダーの歌。恋に悩んでいた時期のもので、駆除の対象にもなる蚊に美しさを感じている」とその感性を紹介した。
石川啄木に感銘を受けて短歌の道に入ったという黒岩さんは「牧水と啄木」と題して、友人同士だった2人の歌をテーマ別に取り上げた。
酒について牧水が歌った「白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかにのむべかりけり」では、「同じ酒好きとして共感できる一首。20代のころの作品であり、ここまで語れるところがすごい」。同じく啄木の「とある日に酒をのみたくてならぬごとく今日われ切に金を欲りせり」については、「酒にのまれているきらいがある。酒が好きで詠んだ歌とは思えない」と評価した。
紹介した計24首いずれも対照的な感想を述べた黒岩さんは「どちらがというものではなく、それぞれの作品に良さがあり、多くの人を引きつけている」と総括。またユニークな語り口で「実は昔購入した牧水全集をまだ読んでいない。(受賞を機に)ひもといていきたい」と打ち明けるなどして会場を沸かせていた。
◆魚にも共感する感性を大切に−日向高校
牧水賞受賞者の学校訪問は、短歌や牧水の魅力について語ったり、生徒の作品を講評することで短歌に関心をもってもらおうと2006年度から実施。今回は日向高校(久保田一史校長)の1、2年生373人を対象に行われた。
同校には、松村さんと黒岩さん、同賞の第17回受賞者で宮崎市在住の歌人大口玲子さんが訪問。大口さんがコーディネーターを務め、2人の経歴や高校時代を語ったり、生徒が事前に作った短歌の講評も行った。
松村さんは、高校時代について「吹奏楽部に所属していて、全国大会に出場する強い学校だったので、ひたすらフルートを吹いていた。勉強しなかった。古文も超苦手だった」。短歌を詠み始めたのは、進学した大学で恋をしていた相手が、短歌を作っていたことがきっかけであると明かした。
黒岩さんは、高校1年生で短歌を詠み始めた。きっかけは、石川啄木が好きだった国語の先生の影響。「2学期全て短歌の授業だった。冬休みの宿題で短歌を作ることになって2首でいいと言われたが、10首作っていった。その時にとても褒められて調子に乗っちゃった」と振り返った。
生徒が作った短歌の講評では、2人が各10首を選定し、一つ一つ解説した。松村さんは、「空は青水辺の太陽セミの声心の日焼け多分君のせい」(黒木俊さん、1年)について、「現代的でおしゃれ。まるでJポップのよう」とリズミカルな点を評価した。
黒岩さんは「夏色に輝く海に寝そべって黒いナマコは何を夢見る」(末澤紫乃さん、2年)を紹介するに当たり、牧水の歌「海底の眼のなき魚の棲(す)むといふ眼の無き魚の恋しかりけり」を挙げ、「普通の人は、黒いナマコや海底の魚に共感を感じない。こういう感性を大切にしてほしい」と呼び掛けた。
講評を受けた末澤さんは、文芸部に所属し、牧水・短歌甲子園にも出場している。「自分でも気に入っていた短歌。意識はしていなかったけど、牧水に似ているという言葉はうれしかった」と話した。