本紙掲載日:2023-01-10
(6面)

「もしも」に備える防災・即メシ講座

知識の有無で行動が変わる-吉田紋子さんが伝授

◆毎月1回、エンクロスで開催・
 冷蔵庫+5日分×人数-普段の食事に取り入れながら備蓄

 いつ、どこで起こるか分からない災害に備えようと、「『もしも』に備える防災・即メシ講座」が毎月1回、延岡市駅前複合施設エンクロスで開かれている。コロナ禍で在宅避難の必要性が高まる中、健康面でも精神面でも必要な「食」について、備蓄の方法や簡単な調理法を知っておくと心強い。講座の内容を紹介する。

 講師は、管理栄養士で防災士の資格も持つ吉田紋子さん(46)=同市瀬之口町=。冒頭で「大前提として自分が住んでいる場所がどういった場所にあるかを把握することが大事」と指摘した吉田さんは、「家が安全な人と家に不安があって避難する必要のある人では備蓄品の内容が全然違う。まずは住んでいる場所が安全かどうかを知ることが大事」と呼び掛けた。

 一人暮らしや高齢夫妻、体に障害があるなど、支援が必要だったり、土砂災害や津波の危険性のある地域に住んでいたりする場合は、避難所に行くのがベストだ。

 しかし、現在は新型コロナウイルス感染の不安から、避難所に行くことをちゅうちょする人は多い。ペットを飼っている場合は、避難先に連れていけるかどうか気を使う。このように、各家庭によってさまざまな事情がある中、注目されているのが「在宅避難」。もちろん家が安全であることが前提だが、他人の中で生活する避難所に比べ、住み慣れた自宅で生活できれば、ストレスが軽減されるという。

 その場合に必要なのが備蓄品。冷蔵庫の食品を2日分と考え、別に最低でも家族の人数×5日分の食材が必要という。

 ただ、いつ起こるか分からない災害に備え、災害時のためだけの食材を備蓄しようとすると、場所も費用もかなり必要となってくる。そこで推奨されているのが、食材を一定量購入してストックし、賞味期限が近いものから順に普段の食事に取り入れ、使うたびに補充する「ローリングストック」だ。

 吉田さんが「例えば」と言って取り出した、前日に購入したばかりという切り干し大根は、賞味期限が半年後と余裕がある。カレーやハヤシライスなどのレトルト食品、種類豊富な缶詰も日持ちするし、日頃の食事で簡単に用いることができる。

 また、「便利がいい」と紹介したのは野菜ジュース。野菜が足りない時は飲めばいいし、料理に加えると、こくが出る。

 補充は、家族の人数が多い吉田さんの場合、月末にストック棚を確認し、足りないものを把握して購入するようにしているという。家族が少なければ、確認するのは数カ月に1度でもいいという。「見直す日を決めるといい」と助言した。


◆水はあちこちに分散-靴箱、車内、トイレにも

 「邪魔になるし使わない」という声が多いという水は、1日分として飲料用に2リットル、生活用に1リットルの計3リットル必要だという。家族の人数分備えようと考えると、こちらもかなりの量が必要だ。

 だからこそ、いろんな場所に分散して備蓄しておくことを勧める。キッチンのストック棚のほか、避難時に持ち出せるように玄関の靴箱、閉じ込められた時に備えトイレ、車内にも至る所に積み込み、浸水に備えて2階にも置くなど、複数の場所で保管しているという。

 空のペットボトルをストックし、活用する方法も提案した。朝、水を入れ、夜までに生活用水として使うことを繰り返す。「いろんな場所に分散してストックし、料理に使いながら備蓄すれば、スペースを多く取らない」とまとめた。

◆冷凍庫の空間は「水」で埋める

 冷蔵庫は、必要以上に詰め込み過ぎると冷えにくくなってしまうが、冷凍庫はパンパンに入っていた方が保冷力が高まる。そのため冷凍庫にスペースがある場合、四角い容器やペットボトルに水を入れたものを詰めておくといいという。保冷剤や氷として使え、いざという時には飲料水にもなる。停電の際に冷蔵庫に移せば、保冷の助けになる。

 もう一つ備えておく必要があるのが、避難する時に持ち出すリュックやバッグ。吉田さんは、軽くて数年間日持ちする防災用のパンやご飯などを入れているという。また、非常時に心を落ち着かせてくれたり、ストレスを軽減してくれたりする甘い物が、災害時は手に入りにくいとして、あめやようかんなどを入れておくことも勧めた。

 災害時の食事については、「災害が起きて、家の中がひっちゃかめっちゃかの時は料理しようとはなかなかならないと思う。直後は防災食のパンやご飯を食べて過ごし、家の中が片付き、生活する空間が保ててきたら、料理すればいい」と話した。

 講座の中で紹介された、手早く調理できる「即メシ」、火を使って行う湯煎料理の作り方は右の通り。


◆水は貴重皿を洗わなくて済む工夫を-調理に関するポイント

▽災害時は水が限られているため、できるだけ水を使わない工夫をする。
・皿を使う場合は、ポリ袋やラップをかぶせるなどして使い、かぶせたものを捨てればきれいな面が保てるようにする。
・牛乳パックを開いたものを保管しておくと、まな板代わりに使える。スライサーやピーラーを使って直接ポリ袋に材料を入れれば汚れない。
・米の表面には栄養分が付いているため、災害時は無理して洗う必要はない。ミネラル補給になる。

▽湯煎調理は基本的に卓上カセットこんろを使うので、日頃からカセットこんろとガスボンベを備えておく。特に、オール電化の家庭は停電の時は調理ができなくなるため、必要。
▽湯煎調理の注意点
・耐熱ポリ袋を使う。
・使用する鍋は、鋳物、圧力鍋、保温鍋、土鍋など厚みのあるものを使うと、保温力があり、省エネになる。
・空気が入っていると爆発してしまうため、できる限り空気を抜いて、結ぶ。▽湯煎調理の場合、鍋の底に皿を敷いて、ポリ袋が直接、鍋の底にくっつかないようにする。


≪省エネレシピ≫
◆ご飯(1膳分)
【材料】
・米80グラム
・水100cc
※講座では100ccの紙コップを目安として使用
【作り方】
①耐熱ポリ袋に米と水を入れ、下から空気を抜きながら絞っていき、一番上をきつく縛る。そのまま20~30分置いて浸す。
②鍋に水を張り、火にかける。
③鍋の底に皿を敷き、①を入れる。水が沸騰してから約20分、湯煎する。
④火を止めたら10~20分、湯の中で放置して蒸らす。
⑤湯から引き上げたら、温かいうちにしっかりとほぐす。ほぐさずに置いたままだと団子状に固まってしまう。
⑥袋の縛った部分をカットし、ラップやポリ袋などで覆った皿に、袋ごと広げばそのまま食べられる。
◇水と一緒に塩を入れると塩ご飯、トマトジュースとコンソメを入れればケチャップご飯のように仕上がり、アレンジも楽しめる。


◆野菜スープ
【材料】
・キャベツ
・タマネギ
・ニンジン
・鶏ささみのフレーク
・大豆の水煮
・トマトジュース
・顆粒(かりゅう)コンソメ
・塩こしょう
【作り方】
①耐熱ポリ袋を広げ、キャベツは手でちぎり、タマネギ、ニンジンはスライサーでスライスして入れておく。
②①に鶏ささみのフレーク、大豆、トマトジュース、コンソメ、塩こしょうと、材料すべてを好みで加え、軽くもむ。
③空気を抜きながら絞り、ポリ袋の一番上をしっかりと結ぶ。
④水を張った鍋の底に皿を敷き、③を入れて20分ほど加熱、その後火を止めて、10分ほど放置する。
⑤袋の一番上を切り、ラップやポリ袋などで覆った皿の上で開いてそのまま食べる。

〈アレンジレシピ〉
◇「野菜スープ」と同様の作り方で、さまざまなアレンジができる。材料の組み合わせ例を紹介する。
◎焼き鳥(たれ)の缶詰、タマネギ、ニンジン、ジャガイモ
◎サバのみそ煮缶、タマネギ、ニンジン、ダイコン


≪火を使わない即メシレシピ≫
◆キャベツとポテトチップスの塩昆布あえ
【材料】
・キャベツ
・塩
・塩昆布
・ポテトチップス
【作り方】
①ポリ袋にキャベツを手でちぎって入れ、軽く塩もみする。
②①に塩昆布を入れてもみ、なじませる。
③ポテトチップスを好みで入れて、混ぜる。早めに食べた方がカリカリ食感が残り、おいしく食べられる。

〈アレンジレシピ〉
◇「キャベツとポテトチップスの塩昆布あえ」と同様、材料をポリ袋に入れて混ぜ合わせるだけで、簡単に1品ができる。
◎キュウリ、さきイカ、中華ドレッシング
◎ニンジン、ツナ缶、「カラムーチョ」、マヨネーズ
◎切り干し大根、ツナの水煮缶、しょうゆ系ドレッシング

◇市販の卵スープで…
講座では市販されている卵スープなどの活用法も紹介。スープジャーや水筒は、保温効果が高いため、温かさが持続する。
今回はスープジャーを使用。こちらも洗い物をなくすため、ポリ袋を入れ、その中に卵スープと春雨、湯を投入した。袋の上を縛り、スープジャーのふたを閉めて放置すれば、すぐに食べることができる。
もちろん卵スープのみでもいいが、「春雨は腹持ちがいい」と吉田さん。満腹感を感じることができるという。
ポイントは、スープジャーに事前に湯を入れ、温めておくこと。保温性がより増すという。その後、湯を捨てて、その中にポリ袋を敷いて使う。
他の洋風スープ+マカロニなどでもアレンジできそうだ。


【吉田紋子(よしだ・あやこ)さん】管理栄養士として日向市内の病院に勤務時代、防災対策委員として病院の食材備蓄などを担当。一方、小中学生3人の母親で「災害時は病院勤めで子どもを置いて家を出なければならない。置いていく家族がすごく心配だと思った」。
長男(15)が小学生の時、小学校の伝統行事だった防災キャンプをより実践的なものにしたいと防災士の資格取得を目指し勉強。2019年に取得した。
現在、フリーの管理栄養士として活動しながら「防災食は子どもも楽しんで学ぶことができる。いろんな人に知ってほしい」と、昨年1月からエンクロスで月1回、講座を開くようになった。
「知識があるかないかで行動が変わる」と力を込める。講座ではこの他、日用品の備蓄、避難時に持ち出すリュックなどに入れておくべき物や便利な防災グッズについても紹介している。
次回は20日午前10時30分から。2月17日も同じ時間帯に開く。参加費は館内800円、オンライン500円。エンクロスに電話(℡延岡20・3900)、またはホームページから予約する。

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