本紙掲載日:2023-05-15
(1面)

災害時の物流−解決策は延岡市から

「延岡市における災害時の物流のあり方に関する最終報告書」を手にする読谷山市長と玉生座長ら(延岡市役所)

全国のモデル地域に−平常時のシステムを変換

◆慶大研究所などのWG−最終報告書、市に引き渡し

 大規模災害発生後に被災者へ何日間も必要物資が届かず我慢を余儀なくされる全国共通の課題に対し、延岡市がモデル地域となって解決策を示すことができる道筋が立った。世界一を誇る日本の商業物流システムを緊急時に災害物資提供インフラへ変換させるという新しい発想で、計画には卸や小売りの業界大手も賛同。今後は飲料水、食料品、日用品などの分野ごとに備蓄や配送の仕組みを整え、順次実証を開始する。

 産学官でつくる慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)研究所ICTプラットフォームラボ災害物資支援DXWG(ワーキンググループ)がたたき台を「延岡市における災害時の物流のあり方に関する最終報告書」にまとめ、11日に読谷山洋司市長へ引き渡した。

◇課題は行政の一括応対

 WGは1年間にわたり、災害物流の現状を市内外で綿密に調査。その結果、飲料水や食料品については地域で一定の備蓄があるにもかかわらず、避難所や被災者からの要請に応じる窓口がほぼ市役所しかないため、「どこに」「何が」「どれだけ」必要かの情報把握が追いつかないことが最大の課題であることが分かったという。

 さらに、市から業者に支援物資を発注する際も、その都度、文書を作成してファクスでやり取りするなど煩雑な作業が重なり、対応が遅滞。こうした効率の悪さは延岡市に限らず、ほとんどの自治体にも共通する。

 解決策としてWGは避難所管理などに当たる地域のリーダーがICT(情報通信技術)を活用して必要な物資を要請し、市と関連企業、他地域で共有できる仕組みづくりを提案。不特定多数の市民が避難する大規模避難所であっても、人感センサーなどである程度の必要物資が即時的に把握できるとしている。


◇全国の卸メーカーが協力

 一方、ドラッグストアやコンビニエンスストアなどで扱うトイレットペーパーや石けん類、生理用品などの日用品は、高度な物流システムで店舗が在庫を抱える必要がないため、逆にそれが災害時の品切れにつながっていると指摘した。

 ただ、大手卸メーカーは地震災害などにも耐える強固な物流インフラを持ち、大規模災害時でも被災地外から日用品を届けられる能力を確保。すでに国内トップの2グループをはじめ、多くの卸物流企業が延岡市の計画に賛同しており、災害対応は可能としている。

◇既存システムを組み合わせDXでつなぐ

 災害物資支援DXWGの座長は、生産者や物流業者、金融機関などをオンラインで結んだ合理的・効率的な物流情報システムを構築し、「日本の物流VANの中興の祖」とされる玉生弘昌氏(プラネット会長)が務める。

 玉生座長は行政主体の人力からICTを活用した災害対応への変換について、「新たにシステムをつくるのではなく、既存の使い慣れたシステムを組み合わせDX(デジタル・トランスフォーメーション)でつなぎ、国民のために使う。新しい民主主義、資本主義の在り方ではないか」と計画のいち早い実現に自信を語った。

 共同座長を務める慶應義塾大学の國領二郎教授も「日ごろ使っているものでなければいざという時に使えず、今ある物を使うことは意義深い真理だ」と評価。「実際に取り組む中でいろんな不具合も起きると思うので、現実に即した形にして全国初の解決策を延岡から発信していければ」と期待した。

 同じく共同座長の読谷山市長は、これまで在宅避難するしかなくSNSで助けを求めていたような被災者への「ラスト1マイル」も、災害物流のDX化で物資を届けられる可能性を示唆。一方、避難所にはより豊富な支援が届くようになるとして、「避難することで必要なものが届くということを提示していくことで〃逃げ遅れゼロ〃を目指したい」と力を込めた。


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