本紙掲載日:2023-08-29
(3面)

海を越えた平和の願い

延岡上空で撃墜−米兵を毎年手厚く慰霊

◆善正寺の法要・ハワイの日刊紙が掲載

現地在住延岡と縁のある、因泥さんが紹介

 太平洋戦争末期の1945年5月5日、延岡市上空で撃墜された米軍B29爆撃機搭乗員を慰霊し、同市山下町の善正寺(野中玄雄住職)が毎年執り行っている法要の取り組みがこのほど、ハワイ唯一の日本語日刊新聞「ハワイ報知」に掲載された。野中住職(68)は「平和を願う気持ちがハワイに通じた。驚きとともに、祈りの気持ちが海を越えたことがありがたい」と話している。

 記事は7月6日発行の新聞に掲載された。海上自衛隊護衛艦「すずつき」が6月、米海軍の協力を受けてハワイ周辺海域で訓練を行ったこと、マキキ墓地にある海軍墓地で清掃や献花を行ったことを紹介する記事のそばに、「敵の兵士を慰霊してきた例は日米双方にあり…」との説明に続いて書かれている。

 野中住職によると、法要を取り上げた5月5日発行の夕刊デイリー新聞の記事を、同寺と半世紀以上の付き合いがあり、ハワイの「愛泉指圧道院・指圧学校」を主宰する因泥徳彦(本名・史彦)さん(83)に送付。記事を読んだ因泥さんがハワイ報知社に話題として持ち込んだという。

 因泥さんはNTTの職員としてパノラマ・アンテナ設置工事のために約1カ月の出張で延岡を訪れていた26歳の時、売られたけんかに応じたことから、下宿先のおかみに勧められて今山大師を参拝。野中住職の父・忠雄さんと出会い、以降、深い交友が続いている。

 記事を読んだ因泥さんは「延岡でこのような供養が行われていること、当時のことを研究している人がいることを知ることができてうれしかった」。ハワイ報知の記者も「いいですね」と関心を持ち、因泥さんから聞き取ったという。野中住職の言葉とともに詳しくまとめた。

 因泥さんから送られた新聞に目を通した野中住職は30年ほど前、ハワイにある記念館の一画で線香を上げて拝んでいた際、現地の人に「誰のために拝んでいるのか」と問われたことを思い出したという。

 「記事の掲載はハワイの人にとっても心を和らげる、平和につながる内容だったのだと思う。祈りは伝わる、平和は広がると改めて実感した」と話した。

 航空戦史研究家の深尾裕之さん(大分県)によると、11人が乗ったB29は日本軍機に攻撃されて海に墜落。パラシュート降下して捕虜となった5人のうち、その日亡くなった1人は、善正寺の当時の住職で野中住職の祖父・豪雄さんによって手厚く弔われ、同寺の墓地に埋葬されたという。

 ほかの4人も福岡の陸軍司令部に送られ、処刑されるなどして亡くなった。米国の遺族からの求めで戦時中に福岡で起きた米兵惨死を調べる中、善正寺では丁寧に葬られていたことが分かった。深尾さんから知らせを受けた野中住職が2019年、平和を祈る機会にしようと法要を始めた。

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