本紙掲載日:2023-08-30
(7面)

10月7日に天下一薪能

「鞍馬天狗」の牛若丸、3度目で初の地元子方

 秋の夜に「千人殺し」の石垣を背景に幽玄の世界へといざなう「第26回のべおか天下一薪能(てんがいちたきぎのう)」は10月7日午後5時半から、延岡市の延岡城址(し)二の丸広場で行われる。NPO法人のべおか天下一市民交流機構(松下宏理事長)など主催。1997年から続けられており、出演は観世流能楽師シテ方の片山九郎右衛門さん、大蔵流狂言師の茂山千五郎さんら。

 演目は、同薪能では2006年以来2度目となる能「井筒(いづつ)」、同年以来3度目となる能「鞍馬天狗(くらまてんぐ)」、05年以来2度目となる狂言「千鳥(ちどり)」。

 同市の子ども13人(小学1年〜中学2年)も出演し、仕舞「嵐山(あらしやま)」「清経(きよつね)」「葛城(かつらぎ)」を舞うとともに、「鞍馬天狗」の花見の稚児役(子方)を務める。

 また、うち1人は「鞍馬天狗」の牛若丸役(子方)に挑戦し、大天狗役(シテ)の九郎右衛門さんと共演する。地元の子どもが務めるのは3度目の公演にして初。

 「鞍馬天狗」は満開の桜に彩られた鞍馬山を舞台に、後に源義経となる牛若丸が大天狗に出会い、兵法を伝授してもらう曲で、威厳ある大天狗の、牛若丸へのほのかな愛も見どころ。

 「井筒」は帰らぬ夫(在原業平=ありわらのなりひら=)を待ち続ける妻(紀有常=きのありつね=の娘)の霊を描いた曲で、世阿弥の夢幻能の傑作。秋の夜に夫の形見を着て井戸をのぞき、自らの姿を映しながら昔を回想する。

 「千鳥」は家のあるじから酒を買ってくるように命じられた太郎冠者が、酒屋から「前回の支払いが終わらなければ酒は渡せない」と言われ、何とか酒屋から酒をかっぱらおうとする曲で、酒屋の気を引くため、あの手この手で奮闘する演技が見どころ。

 雨天時は同市東浜砂町の延岡総合文化センターに会場を移す。日時に変更はない。

チケットは指定SS席1万円、指定S席8000円、自由A席5000円。はがき、ファクス、メールでの申し込みのほか、チケットぴあ(自由A席のみ)、同文化センターなどでの窓口販売(指定S席と自由A席)で扱っている。詳しくは同交流機構(箟箍33・0248)まで。

◆内藤家旧蔵の使用予定面

 のべおか天下一薪能では毎回、同薪能が始まるきっかけにもなった、延岡市に残る内藤家旧蔵の能面が使用される。同市では現在、「天下一」の称号を持つ面打ち師が制作した能面など72面が所蔵されている。

 この中から今回は、能「鞍馬天狗」に登場する大天狗役(シテ)に「大べし見(おおべしみ)」、「井筒」に登場する紀有常の娘の霊役(シテ)に「小面(こおもて)」が使用される予定という。


◆井戸も能装束も「お楽しみに」−能楽講座始まる−能楽師の橋本さん

 「第26回のべおか天下一薪能」を前に、今回の演目を学ぶ能楽講座が19日、延岡市の市民協働まちづくりセンターで始まった。全3回予定されており、初回は、同薪能に第2回から出演している観世流シテ方能楽師の橋本忠樹さん(49)が「能の舞台裏よもやま話」と題して語った。

 能の特徴として「セットではなく小道具で情景を表す」「同じ演目でも、演出で能装束が全く異なる」と説明した橋本さん。

 「井筒」で使われる小道具の「井戸」には、高さが低いものと高いものの2種類があり、どちらを使うかは演出によって決まる。さらに、その高さに合わせて演者も動きを変えるといい「どちらの井戸が使われるかは本番直前まで分からない。お楽しみに」と呼び掛けた。

 続いて、せりふや発声方法などが書かれている「謡本(うたいぼん)」を読み上げながら、能「鞍馬天狗」の物語を解説した。

 能楽師の子どもの初舞台になることが多い演目で「稚児役から始まり、お兄さんの背中を見ながら『いつか牛若丸ができたらな』と憧れる」という。

 また、代々受け継がれている稚児役の能装束も披露。「一番丈が短いものでも子どもにとっては大きいので、たくし上げて着せる。年を経て同じものを着ることもあり、調整の幅が小さくなっていくのを見ると大きくなったんだなと感じる」と語った。

 「小さい」「かわいい」と目を細める参加者に「薪能当日は能装束も総出演します。お楽しみに」と締めくくった。

◇次回は9月8、29日

 能楽講座は9月8、29日にも開かれる。参加無料。

 8日は奈良県立万葉文化館企画・研究係長の井上さやかさん(同市出身)が「井筒にみる和歌の命脈」と題して話す。

 29日は同市歴史・文化都市推進課調査・研究・普及係長の増田豪さんが「延岡藩における神事能〜内藤家旧蔵の能狂言面伝来の過程をめぐって」と題して話す。

 いずれも午後7時から、同市東本小路の市民協働まちづくりセンターで。参加希望者は事前にNPO法人のべおか天下一市民交流機構(箟箍33・0248、メールtengaichi@dolphin.ocn.ne.jp)に申し込む。

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