本紙掲載日:2023-10-03
(3面)

デイリー健康大学延岡会場(中)

噛むことのさまざまな効果を語る染矢院長

「よく噛むことからはじめる健康長寿」四倉歯科医院・染矢哲郎院長

◆30回以上噛めば効用が−肥満防止、脳の活性化、がん予防など

 まず、肥満防止についてです。しっかり噛(か)んで味わうと脳の満腹中枢が満たされ、食べ過ぎを防止してくれるわけですが、よく噛まないと満たされる前に食べ過ぎてしまいます。しかも、速く食事をすると血糖値が急激に上昇し、それを抑えるためにインスリンが多量に分泌されます。

 インスリンは使い切れなかった糖を脂肪に蓄えるため、早食いは肥満の大きな原因となります。逆に、よく噛むと顎の周りの筋肉を相当使うので代謝が上がり、エネルギーを消費して、痩せやすい体にもなります。

 味覚の発達については、濃い味は単純な味なのですぐに覚えてしまい、微妙な味の差を感じることができなくなります。できるだけ薄味にして、よく噛みゆっくり食べることで食材そのものの持ち味、形や固さなども感じられ、味覚も発達します。

 コミュニケーション力の発達にもよく噛むことが深く関係します。噛むことで顎が発達して歯並びが良くなると口元に自信ができ、口を大きく開けて話したり笑うようになり、きれいではっきりとした発音で話し表情も豊かになります。

 これは子どもだけに限った話ではなく、例えば、入れ歯が合わず口元にコンプレックスがあった方が、きちんと合う入れ歯を作っただけで一瞬にして表情が明るくなり、とても社交的になります。口元の表現力はコミュニケーションに重要で、噛む力を使うことで表情も良くなっていくんです。

 次は脳の発育についてです。噛みしめることで、こめかみの部分にある側頭筋により頭蓋骨が開いて、脳の血流が上がります。トラックドライバーが眠いときにガムを噛むのは合理的で、噛むことは子どもの脳発達だけでなく、認知症予防にも効果的なんです。

 また、噛むことは五感の情報を一挙に、かつ同時に脳に取り込むことができる唯一の方法とされ、食べ物をよく噛むことで喜怒哀楽の記憶を思い出したり、五感を使って食べることで脳がさらに活性化します。

 歯の病気予防についてはイメージしやすいと思いますが、よく噛むことで出る唾液は食べ物のかすや細菌を洗い流す作用があり大変重要です。また、顎の筋肉が鍛えられ顎の骨も発達することで歯並びが良くなると、ますます口の中をきれいに保ちやすくなり、虫歯や歯周病を予防できます。

 (上の「卑弥呼の歯がいいぜ!」のところで紹介しましたが)、噛むことが、なぜがんの予防になるかというと、唾液にはペルオキシダーセという酵素が多く含まれるからで、その酵素が食品の発がん性を抑えるということが最近分かってきました。

 十分な唾液が出るよう、できれば一口で30回以上噛んでいただきたいと思います。

 では、胃腸はどうでしょうか。噛めば噛むほど食べ物を細かくして、唾液とよく混ぜ合わせることでオブラートのように包み、優しい状態で胃に送ることになります。

 唾液の中には、胃を保護して食べ物を飲み込みやすくするムチン、ご飯やパンを分解して麦芽糖にするアミラーゼ、抗炎症剤で使われるほどばい菌の増殖を抑える力が強いリゾチウム、細菌の発育を抑制するラクトフェリン、免疫作用を強めるIGA抗体、歯を強くするスタテリンなどの成分があります。

 唾液の量が少ないと誤嚥(ごえん)性肺炎も起こりやすくなります。唾液腺のマッサージが効果的で、口腔(こうくう)乾燥症はしっかりとした治療法がありますので、ぜひ歯科医院にお尋ねください。

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