本紙掲載日:2024-08-13
(7面)

押阪忍さんとの思い出−兵頭頼明

延岡市出身−映画評論家

 今から50年前の1974年、小学生生活最後の春休み、私は押阪さんが司会を務めていたクイズ番組『ベルトクイズQ&Q』春休み子供大会に出場することになった。

 岡富小学校で放送委員会なるものに所属し、ラジオ聴取やテレビ視聴、そして映画鑑賞が大好きだった私にとって、数多くの番組で活躍していた押阪さんは憧れの存在であり、ヒーローだった。予選を勝ち抜いて番組に出場できる喜びは大きかったが、それ以上に、押阪さんに会えるという期待に胸が踊った。

 番組収録日の4月1日。その日のことは克明に覚えている。TBSの会議室でご対面した押阪さんはテレビで見ていた通り、実に格好良かった。

 「お名前は、ひょうどうよりあき君で間違いないですか?」

 名前の読み方を確認する押阪さんに「はい!」と元気よく答える私。その短いやり取りだけで胸がいっぱいになったが、同時に、とても不安になった。この日、押阪さんは風邪をひいていて、咳(せき)は出るわ、鼻水は出るわという最悪のコンディションだったのだ。これで番組は大丈夫なのだろうか。

 ところが、本番が始まると、押阪さんは風邪をひいていることなどおくびにも出さない。いつもと変わらぬ様子で軽快に司会をこなし、番組はスムーズに進行してゆく。そして、CMに切り替わった途端、ゴホゴホゴホと咳をし、足元に隠していたティッシュを取り出して何度も鼻をかんだ。CMが終わる直前にティッシュを仕舞って咳払いし、カメラに向かってニッコリほほ笑む押阪さんを見て、私はただただ驚いた。

 「はい、次の出場者です!」

 それは、私が初めて見た真のプロの姿だった。決して忘れることのない、小学生時代最後の強烈な思い出である。

 詳細は、本紙へ。

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