本紙掲載日:2024-09-11
(8面)

巨典の−故郷は遠きにありて思うもの(37)

〃回り道〃で得た経験値− 西都市・有田牧畜産業−有田ジェームスさん(沖縄県出身)

◆民放アナから畜産の世界へ−和牛、世界各国に輸出・販売

 皆さんは、仕事や人生で「回り道」をしたことはありますか?

 効率化を優先しがちな現代においてはマイナスイメージにつながるかもしれませんが、回り道をすることでより多くの経験が生まれて、それが後々の人生に役立つという考え方もあります。

 沖縄県石垣島出身の青年が、延岡市の九州保健福祉大学(現在の九州医療科学大学)臨床福祉学科に進学しました。当初は福祉の道を歩むつもりでしたが、縁あってアナウンサーに採用されました。地元の沖縄テレビ放送に入社し、経験を積んだ後、プロ野球の実況をするために福岡のRKB毎日放送のアナウンサーへと転身します。

◆結婚が転身のきっかけ−お相手は歌手JILLEさん

 三好ジェームス・アナウンサーは、ソフトバンクホークスの選手たちの活躍などを伝える充実した日々を送っていましたが、2020年に結婚。何と、お相手は宮崎県西都市出身で、15年に香港アジアポップミュージックフェスティバルでグランプリ、ボーカルパフォーマンス賞とステージパフォーマンス賞の3冠を受賞した実力派シンガー・JILLE(ジル)さん。この結婚を機に、JILLEさんの実家の仕事、畜産業へと転身を遂げたのです。

 現在は、有田ジェームスと苗字を変更し、西都市にある有田牧畜産業で生産された宮崎牛ブランド「有田牛」を、東南アジアやアメリカ、ヨーロッパ、南米、オセアニアなど世界約20カ国を相手にミシュラン星付きレストランや高級ホテルなどに販売しています。

 有田牛は別名「EMO牛」。「大地に薬はゼロを目指す(EarthMedicine0の頭文字でEMO牛)」の理念の下、牛にも、餌にも水にも薬を使わずに育てています。

 有田さんが設立した輸出会社の名は「NIKUJILLE」。肉汁の意味ですが、奥さんの名前JILLEがアレンジされています。さすが愛妻家!

◆延岡で過ごした学生時代−「縁」の大切さ、今でも

 人生の回り道をしたことで、有田ジェームスさんには実にさまざまな経験値が付いてビジネスに役立っているように見えますが、基本は、学生時代に延岡で生活し、いろいろな人と触れ合えたことが大きな柱となっているそうです。

 近所の定食屋のおばちゃんなど、温かい延岡の人たちとの付き合いで「縁」の大切さを知り、今のビジネスにおいてもオンラインよりも「FaceToFace(向かい合って)」を重視しているそうです。

 そして、「アナウンサーの仕事で役立っていることは?」の質問には「プレゼン(説明)技術!」と即答。インタビューの技術は商談において強い武器となっているようで、最近はインタビュー+α、有田牛を買ってくれた人の次の課題を一緒になって探ることでさらに強い信頼関係がつくられるようになったと話します。

 また、テレビの編集作業で培った技術を駆使。有田牛のPR動画や映像はコロナ禍に自分で編集したそうで、かなりのクオリティーの高さが目を引きます。

 さらに、有田さんの両親は共に陶芸家。料理を盛る器への審美眼も養われたからでしょうか、最近は「ARITA×ARITA(有田×有田)」と銘打って有田焼と有田牛のコラボも提案し、スペインのレストランから好評を得たそうです。

 コラボと言えば、有田さんの口から出てきたコラボをしたい県北の商品が、高千穂町の杉本商店が出しているうま味を深める魔法の粉「椎茸(しいたけ)粉」、延岡市の虎彦の銘菓、さらに同じく延岡市の千徳酒造や佐藤焼酎製造場の酒や焼酎にも興味を示していました。もしも、西都市の有田牛と県北産品が手を組んで世界に進出できたらと考えるとワクワクしてしまいます。

 今後の展望は、ムスリム(イスラム教徒)人口の多い地域にハラール認証基準(イスラム教の戒律に対応)を満たした和牛を安定販売すること。先日、西都市の牛肉処理施設が「ハラール」認証を県内で初めて取得したというニュースが伝えられました。このことで、施設で生産された食肉は世界人口の約4分の1を占めるイスラム教徒に向けた販売が可能になり、県産牛肉の輸出拡大が大いに期待されることになります。

 そしてもう一つ。和牛の海外での需要は、高級部位(ヒレやサーロインなど)やA5等級に偏っているそうですが、それ以外の部位や等級でも、調理方法や肉のカットの仕方を世界に伝えることで、販路はさらなる拡大が見込めると言います。

 今後は、和牛のPRやレシピ紹介などを周知徹底させていくことで、畜産農家の利益アップにもつながり、日本の畜産業の未来がより明るくなっていくのかもしれません。

 20年の結婚を機に大きく変わった有田さんの人生。「こんな未来とは思わなかった!」と本人も驚いていますが、どうぞ、今後は宮崎の、そして日本の畜産業の未来のために、回り道をせずに「世界に繋(つな)がるWAGYU(和牛)の道」をまい進してもらいたいと思います。

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