第２１回若山牧水青春短歌大賞入選作品

本紙掲載日：2021-02-11

6面

◆高校生部門

宮城県仙台市・聖ウルスラ学院英智高１年・横溝麻志穂
答えまで選べぬようなこの時代私は記述で数式を解く

茨城県那珂市・水戸農業高２年・崎野真菜実
満月だ月の引力強すぎて悲しい気持ち月に吸われた

茨城県那珂市・水戸農業高２年・岡﨑詩音
ぴえんぴえんぴえんぴえんさびしくて悲しい時は抱き寄せてあげる

茨城県那珂市・水戸農業高２年・小松﨑優希
夏初め猫の重みで目を覚ます私はそれを抱いて寝なおす

茨城県結城市・結城第二高３年・田崎菜緒
ひとり咲く黄色い黄色いチューリップあなたのためについた嘘です

茨城県結城市・結城第二高３年・辻優香
菊の花はじいちゃんの好きだった花というわたしの好きなばあちゃん埼玉県川

越市・星野高２年・東風平梨緒
光とは輝くものと説く君の左奥歯の銀歯が好きだ

埼玉県日高市・星野高３年・野城知里
マシュマロのほどける音の恋に似て家具の隙間の猫を呼びたり

東京都西多摩郡瑞穂町・瑞穂農芸高３年・小林大悟
ピサの斜塔少し傾く恋心のぞいてみたいガリレオのように

東京都練馬区・小石川中等教育学校２年・田中磨由子
陽をはじき弧を描きつつ舞うトビがやけに羨ましい夏の朝

東京都新宿区・学習院女子高等科２年・橋本櫻子
大人には切り捨てられる無駄たちを拾ってやるのが青春なのだ

東京都新宿区・学習院女子高等科３年・木原彩弥子
パスモ代節約したくて歩きます茶色のネコに今日も挨拶

東京都新宿区・学習院女子高等科３年・松井仁和
青色のマッキーペンが二本あり寂しそうだから赤色を足す

東京都新宿区・学習院女子高等科３年・仙田梨紗
本当はただちっぽけなわたしです他人（ヒト）を気にして殻にこもって

東京都新宿区・学習院女子高等科３年・日暮遥
晩鐘の甘み苦みを飲みこんで胃にとけてゆくコーヒーゼリー

東京都新宿区・学習院女子高等科３年・東瀬美咲
麦わらをかぶった君は軽やかでひまわり畑の波にのまれた

東京都千代田区・武蔵野大学付属千代田高等学院１年・高珍享
いつの日か賑やかだったやりとりは業務連絡みたいに冷めた

東京都品川区・渋谷教育学園渋谷高２年・鈴木深優
そんな風に不安がるなよ君はまた愛されたくてぶらんこを漕ぐ

東京都品川区・渋谷教育学園渋谷高２年・岡奎那
思いきり蛇口を天に向けた君の赤錆に触れそうなくちびる

神奈川県横浜市・慶應義塾湘南藤沢高等部１年・石川胡桃
シワだらけ机の上の模試判定もう一時間鳴らない風鈴

富山県新川郡上市町・上市高２年・渡辺菜月
自転車は下校の坂をひた下る今日の心の水を濾過して

富山県新川郡上市町・上市高２年・宮坂侑茉
奴と吾（ア）は黄金分割、近づける距離の分ほどまた離される

岐阜県飛騨市・吉城高２年・吉川彩香
「月がきれいですね」と君にラインすれば「死んでもいいわ」と返信のくる

三重県津市・津高１年・長谷川颯良
熟すまでかわいくめでてリボンつけペットにしたい夕張りメロン

三重県津市・津高２年・西川文翔
鬼灯を片手に思い出語る祖母かすかに浮かぶ祖父の姿

京都府京都市・大谷高３年・井上菜摘
ラリー中ボールが変な方向にとんでくだけで笑いあってる

京都府京都市・大谷高３年・小澤満希
ひたすらにハンドボールを競ってた三百六十五日×三

京都府京都市・大谷高３年・山田和佳
保護者への配布プリント担任は扇子のように広げて数える

福岡県福岡市・福岡女学院高２年・辻愛生
五日間連続で夢に現れてああ、もう君が好きになってる

宮崎市・宮崎西高１年・谷口亜美
人生に勝ち負けなんてあるのかな生まれて消ゆるソーダ水の泡

宮崎市・宮崎西高１年・淵上耀介
古本屋もって行かれる絵本達ラスト一回母一人読む

宮崎市・宮崎西高２年・久保田青空
長ネギも玉ネギ小ネギ白ネギもそれぞれが持つ優れた力

宮崎市・宮崎西高２年・大森萌
炭酸水みたいな勇気集めても君の前ではしゅわっと消える

宮崎市・宮崎西高２年・坂本遥香
君に借りた本を三回読みおわり白ブラウスにアイロンかける

宮崎市・宮崎西高２年・石川絢子
金色のりぼんがほどけていくように笑うあなたの眦が好き

日向市・富島高２年・葛和凌平
しんとして静かに落ちるその粉は、世界が告げる眠りの挨拶

日向市・富島高３年・桑木梨緒
「暇だね」と話しかければ「暇だね」と答える人は画面越しにいる

日向市・富島高３年・守部真努花
あなたより素敵な人はいるけれど好きになれるかはまた別なんだ

延岡市・聖心ウルスラ学園高２年・黒木愛実
ラムネびん机に転がる水滴に端からにじむ原稿用紙

延岡市・聖心ウルスラ学園高３年・河野滉平
消しゴムはもう必要ない僕たちがシャープペンで塗りつぶす今

延岡市・延岡星雲高１年・山元朔太郎
レモンティーにぎって冷えた左手につないだ右手の熱はこのまま

延岡市・延岡高２年・森陽菜
読み漁る好きなあの子のプロフィール詳しくなったウツボの求愛

延岡市・延岡高２年・和田真育
マチュピチュじゃ私はきっとふりむかない乙女心を甘く見ないで

延岡市・延岡高２年・白瀬碧翔
月のような様子で過ごすあの人は二人きりだと太陽になる

延岡市・延岡学園尚学館高等部１年・灘琴乃
クレヨンが好きな色から減るように残る宿題苦手な科目

延岡市・延岡工業高１年・田中天心
祖母の縫うマスクの裏地が華やかで人には見えぬひそかな楽しみ

延岡市・延岡工業高１年・矢部苺花
検定で緊張したきゅうり切りリズムよくきれよし、いい感じ

延岡市・延岡工業高３年・平野滉翔
この時代指先だけで人が死ぬ言葉が今は立派な凶器

延岡市・延岡工業高３年・下田遼希
甲子園無いと知った翌日も訳も分からず朝練に行く

延岡市・延岡工業高３年・馬場七花
かわいいと思ったキリンの子の身長私の身長足す三十センチ

◆大学・一般部門

北海道札幌市・３８歳・住吉和歌子
わたくしのピアノをいつも聴いているカニサボテンにたわわな蕾

北海道札幌市・４６歳・平松泰輔
この箱で宇宙は二つに分けられる僕の持ってるあなたの遺骨

青森県青森市・７８歳・田邊亨
廃校の跡地の錆びた金網に夢の続きと昼顔からむ

青森県東津軽郡蓬田村・３３歳・猫田馨
同じ本持つてゐたいと何軒も書店巡りて『はつ恋』買へり

秋田県由利本荘市・２３歳・加藤菜々
独り立ちしてから知った食パンの期限がこんなに早いってこと

福島県須賀川市・５２歳・伊東伸也
友達を見つけようと表示されフェイスブックを即座にやめたり

福島県郡山市・７０歳・高樹茂子
結論までいかない恋が十ばかり初雪の日の匂いだけして

茨城県水戸市・３４歳・鈴木智子
駆け引きは野球みたいに詩的だね送りバントで駒を進める

茨城県桜川市・３８歳・中原壱朋
しゃぼん玉君を映して空へ舞う君より君を知ってる気がする

茨城県坂東市・県立農業大学校２年・柳﨑舞花
あなたを好きなまま軽蔑したよ。わたしは幸せなままだよ。まま。

茨城県古河市・５３歳・阿久津孝子
目をやればあっちこっちに向いて咲くペチュニアは皆おしゃべりな花

栃木県さくら市・６６歳・青木一夫
階段の電球の下に封を切る母の手紙はひらがなばかり

群馬県吾妻郡東吾妻町・３５歳・金子歩美
妹と図書館へ行く夏休み予備のマスクを多めに持って

埼玉県所沢市・４９歳・坂井傑
かなしいと云えないほどにかなしくてハエトリグモといっしょに踊る

埼玉県東松山市・２０歳・清水七海
蓋をした気持ち取り出す君の名が予測変換から消えるまで

埼玉県新座市・４８歳・今井恵美
年下ともう遊べないさっちゃんの「あそぼ」を無視した中一の夏

千葉県船橋市・青山学院大２年・笠川玲
朽ちてゆく猫の死骸に背を向けたあの日倫理のテスト満点

千葉県流山市・７７歳・葛岡昭男
散り際に激しく匂うカトレアを挿して苦情の客をまちおり

千葉県市川市・５０歳・高澤養子
さよならを言った後にももう一度いつも同時に振り向く二人

東京都足立区・４０歳・小野史
炎天下水飲み干してカマキリの目玉みたいに張る喉仏

東京都練馬区・１９歳・桐生莉緒
君がいる記憶を開くための付箋たとえば雨のバス停留所

東京都板橋区・１８歳・山口遥花
漫画本あなたの勧めで買い始め棚埋め尽くすもういないのに

東京都町田市・７７歳・野村信廣
きみの手にいつも優しく光ってるスマホのようにぼくはありたい

東京都八王子市・４２歳・澪那本気子
坂道で空気の抜けた自転車を押して歩いていたような恋

東京都練馬区・５２歳・井上秀子
二十分すべての時計を進ませて遅れ出したらそれ私です

東京都三鷹市・２３歳・山本礼菜
嫌いって言ってくれたらスケジュール帳の八割空くんだけどな

東京都文京区・東京大１年・有吉玲
美しい記憶は褪せる僕がまだかたつむりである頃みた光

東京都新宿区・青山学院大３年・横山友香
上京の前日の朝卵とく音で目が覚め布団をかぶる

神奈川県横浜市・４３歳・友常甘酢
生きてゆくことは心配することで心配し合えるあたたかな春

神奈川県横浜市・１８歳・合志星羅
青春のどこをとってもビートルズだったか祖父のアルバムめくる

神奈川県横浜市・３４歳・久藤さえ
裸眼では生きていけないけどすごい朝焼けだってことは分かるよ

神奈川県横須賀市・２９歳・須山恵美
制服のスカート一つ折り返し君を待ってる１番ホーム

山梨県中巨摩郡昭和町・７３歳・齊藤猛美
詩一つ浮かびし朝にペン取りぬ葱の香りのまだ残る手に

山梨県都留市・２５歳・山本栞
ブルーベリージャムのちょうど切れた朝かなしみが瓶に透けて群青

静岡県浜松市・放送大１年・尾内甲太郎
恐竜が目覚めるほどの恋をしてあとは滅びるだけの僕らだ

愛知県名古屋市・７４歳・山田靜
実家より千両・万両移植して遺産相続完了したり

愛知県東海市・６２歳・斉藤浩美
とびはねて胴体さがす蜥蜴の尾生物部には女子部員ひとり

三重県松阪市・６１歳・小山肇美
ねじ花のピンクの螺旋階段のおどり場にいてきみと見る空

三重県志摩市・４４歳・清水ゆん
宇宙船が飛んでいるんじゃないかって空を見てから雨戸は閉める

滋賀県長浜市・５７歳・佐藤千絵
合奏に入りそびれて立つ窓辺葡萄色したカーテンのかげ

京都府木津川市・４０歳・川﨑岳史
坂道でついて来れない君を待ち昔は良かったなんて言わない

大阪府堺市・４５歳・山野大輔
何だってできる予感のソーダ水気づけば炭酸僕を追い越す

奈良県宇陀市・７７歳・渡辺勇三
あの頃はよかった式の老いの愚痴われいまそれをひょいと口にす

鳥取県鳥取市・７７歳・上嶋東木
行商の媼（オウナ）が縁に腰下ろし財布の中を確かめている

岡山県浅口市・６９歳・小林一恵
ひまわりの種のせ佇てばふうわりとヤマガラの足てのひら?む

山口県下松市・４５歳・松友しのぶ
あの人と同じ小説買ってみたそれだけの恋通学電車

愛媛県松山市・５６歳・堤善宏
消えかけた目盛りの定規で線を引く今は人生のどのあたりだろう

佐賀県嬉野市・７７歳・御塚賢三郎
乳牛（チチウシ）を洗ひに川へ行くことの難しさ知る少年の日に

長崎県佐世保市・９４歳・谷頭貞夫
ゲートルをきりりと巻きし緊張を痩せたる脚が記憶してゐる

熊本県八代市・５８歳・泉和也
ちょっとだけ離れて歩くだんだんと靴が素直になって近づく

熊本県球磨郡湯前町・７５歳・風岡睦子
昔日に紙芝居始まるその場所はわが家の下の牛の爪切り場

熊本県天草市・７３歳・河内敦子
甘玉子つくりし時に柿色の郵便受けはゴトリと音する

鹿児島県いちき串木野市・６７歳・山神哲男
旧仮名で母への想ひ綴りたし空に満月虫は涼やか

日向市・７７歳・黒木直行
原爆の子の像モデル禎子さん同じ日生まれの我は喜寿なり

日向市・８７歳・長渡栄子
ひなあられ添えられてあり手術日を明日にひかへし夕の食膳

延岡市・８８歳・浜松栄一
縞蛇の身をよじりつつ石垣にもぐる力を近々と見つ

延岡市・５０歳・古川久師
走るのはもういいだろう寄り道をしつつ歩けば花にも気付く

延岡市・５８歳・甲斐勤子
死に方が生き方だった亡き義父（ちち）に生きる力を与えられつつ

延岡市・６４歳・小野雅史
鰺もらいなついてくれた「吾輩」は野良猫なれど釣りの友なり