連載－ここが日向神話の本舞台（上）

本紙掲載日：2022-11-30

3面

２０１６年６月２５日、延岡総合文化センター小ホールで講演する宮﨑照雄氏

神武天皇は県北にいた－宮﨑照雄三重大学名誉教授

◆延岡にあった吾田の長屋の笠狭の御碕－「倭国之極南界」こそ、この県北

　皆さんこんにちは。三重大学名誉教授の宮﨑照雄です。今回、宮崎県北を舞台とする日向神話について、三つほどご紹介させていただきます。

　まず、瓊瓊杵尊（ににぎのみこと）が至った「吾田（あた）の邑（むら）」、つづいて「吾田の長屋の笠狭（かささ）の御碕（みさき）」と「木花咲耶姫（このはなのさくやひめ）」について述べましょう。

　私は、日向神話の本舞台は、宮崎県北（高千穂町、日之影町、延岡市、門川町、日向市など）だと考えています。

　実は、宮崎県北の地域は西暦５７年には既に歴史書に現れていたのです。少し難しいですが、中国の歴史書「後漢書」倭伝に、「建武中元二年倭奴國奉貢朝賀使人自稱太夫倭國之極南界也光武賜以印綬」とあります。意訳すると、「西暦５７年に倭奴国王が、貢ぎ物を献じて後漢の王朝に新年の祝賀に訪れた。その時、光武帝は紫の綬（ひも）のついた金印を授けた」と解せます。

　この金印が江戸時代に福岡県の志賀島で見つかった「漢委奴國王」金印なのです。金印の印文の正しい読みは「漢の委奴国王」となります。それでは委奴＝倭奴（ゐな）国王の貢ぎ物は何であったか？それは漢人が宝物とするたくさんの「金」であったのです。では委奴国王はどこから金を入手していたのか？

　その地が「倭国之極南界」（ゐこくのきょくなんかい）であったのです。つまり「倭人」が住む地域最南端すなわち宮崎県北なのです。その当時、県南から鹿児島県にかけては熊襲族（くまそぞく＝隼人族）の住む地域であったからです。「倭」は漢音では「ゐ」＝い、古くはｗｉ（ウィ）＝と読みます。

　県北では地質学的に、１５００万年前、祖母山、大崩山、傾山の火山活動で陥没カルデラ等が形成されたとき熱水鉱床が形成され、３００万年前に隆起した結果、日之影町と田原川に金・銀の漂砂鉱床が生まれていたのです。それらの川では砂金や金塊が豊富に採れたのです。

　その金銀を採っていたのが山祇（やまつみ）族であり、族長の大山祇が委奴国王に金を供給していたのです。大山祇は木花咲耶姫（神吾田津姫〈かむあたつひめ〉）と姉の磐長姫（いわながひめ）とともに「吾田の長屋の笠狭の御碕」（現在の延岡市）に暮らしていました。

　そこに、西暦２４８年９月５日の皆既日食の朝、瓊瓊杵尊が日向の山岳重畳（ちょうじょう）たる高千穂の霊峰に天下ったあと、猿田彦の案内で、「吾田半島の笠狭岬」にやってきて、木花咲耶姫と出会って結婚することになり、ここから日向三代の物語が始まるのです。

　だれが、２人を出会わせるようにしたかって？それは事勝国勝長狭（ことかつくにかつながさ、別名、塩土老翁〈しおつちのおじ〉）です。この事勝国勝長狭は「日本書紀」一書第四では、伊弉諾尊（いざなぎのみこと）の御子とされています。

　また、私は、伊弉諾尊は委奴国王を神格化したと推理しています。委奴国王の一族の者が、大山祇と縁を結び木花咲耶姫をなしていたのです。

　高千穂から現在の五ケ瀬川の河岸段丘を住むによい国を求めながら下った瓊瓊杵尊一行は、「此（こ）の地は、空国（むなくに＝住む人が少ない処）に向かい、笠沙の御前に真っ直（す）ぐに通じ、朝日が直刺す国、夕日が日照る国なり。ゆえに、此の地は甚だ吉（よ）き地」に至り、喜んだ瓊瓊杵尊は、地底の磐に太い宮柱を立てて、高天原に向かって千木を高くそびえさせた宮殿を建てたのです。そこは、周辺に貝塚遺跡（高野、大貫）のある天下地区なのです。五ケ瀬川の河口は水田開発に利用できる沖積平野であり、葦（あし）の茂る湿地帯でした。現在の延岡市街はまだ海中にあったのです。瓊瓊杵尊は、稲穂を携えてきており、水田開発をして、後に吾田の邑とよばれるようになるのです。後日談になりますが、瓊瓊杵尊と結婚した木花咲耶姫は、神撰（しんせん）田で作った米を炊いて噛（か）み酒を醸し、父の大山祇に振る舞っています。ただし、姫の妊娠を疑って姫を怒らせた瓊瓊杵尊にも噛み酒を振る舞ったかどうかは、分かりません。

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　古事記、日本書紀で活躍する神武天皇は神話の世界の話ではなく、実在し、その本舞台は県北だった。三重大学名誉教授の宮﨑照雄さんは水族病理学が専門だが、独自の研究から神武東征は史実だと主張する。季刊誌「邪馬台国」が主催した論文募集に理系学者からの視点でまとめた論文を応募、最優秀に選ばれて脚光を浴びた。延岡市では２０１６年６月に初めての講演会があり、自説を紹介した。上中下の３回に分けて、宮﨑さんに自ら書いていただいた。