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県新型コロナ対策調整本部・佐藤圭創特任医師に聞く
新型コロナウイルスの新規感染者数は全国的に下げ止まりましたが、現在は横ばい状態です。ただ、1人から何人に感染しているかの指標となる実効再生産数は宮崎県を含む33都道府県で「1」を超えて、2週前の15、前週の21都道府県から確実に拡大しています。こうした中、新型コロナワクチンの公的接種(自己負担なし)は5月8日から新年度体制となり、当面は高齢者や基礎疾患がある人などから進めることとなっています。そこで今回は、今後の流行予測を含めたワクチン接種の考え方について、県新型コロナ対策調整本部の佐藤圭創特任医師に話を伺います。
◆XBB系統への置き換わり加速
佐藤医師によると、11日現在の実効再生産数は全国平均が1・04で宮崎県は1・10でした。九州は熊本県と鹿児島県を除いて「1」を超え、これから感染者数が増加していくことを示しています。
その背景の一つに、海外で主流となっているオミクロン株の新たな変異種、XBB系統ウイルスの感染が国内でも徐々に広がっていることが考えられます。
県内のゲノム解析ではXBB系統ウイルスが3週間前と2週間前に1件ずつ、先週は3件検出され、今週はさらに6件と倍増しました。県内の全検体に占めるXBB系統の割合も前週から18ポイント増の32%となり、全国的にBA・5系統からの置き換わりが進んでいるとみられています。
◆延岡市は減少傾向
延岡市の実効再生産数は0・67で引き続き感染者数は減少傾向にあり、11日時点で入院している感染者は1人、宿泊療養施設の入所者は0人、専用ベッド使用率も1・5%と安定しています。
ただ、市内ではこの1週間に90代の高齢者1人が新型コロナに伴う体調の急変で亡くなっており、佐藤医師は「高齢者が重症化しやすいことに変わりはなく、ウイルス自体の感染力が落ちたわけでもない」と、改めて正しい理解を求めています。
◆5類移行の5月8日から23年度の接種に−手元にある接種券は前日までに失効
新型コロナの感染症法上の位置付けが現在の「2類相当」からインフルエンザなどと同じ「5類」へと移行する5月8日から、2023年度(春)のワクチン接種が始まります。
初回接種(5歳以上は2回、生後6カ月〜4歳は3回)を受けていない人や基礎疾患がある場合などを除いて、64歳以下の人の多くは同日から当面の間は公的接種を受けられなくなるため、延岡市などは希望者に早めの接種を呼び掛けています。
5月8日からは、オミクロン株対応2価ワクチンの接種対象(初回接種済みであることが条件)が年代によって次のように定められます。
まず、成人を含む12歳以上で接種できるのは「65歳以上」「5歳以上で基礎疾患がある人」「医療従事者など」です。5〜11歳は初回接種が終了してオミクロン対応ワクチンを未接種であれば追加接種が可能で、基礎疾患がある場合はさらに1回の追加接種を受けることができます。
自動的に接種券が届くのは65歳以上(来年3月末時点)の人のみで、それ以外に接種対象となっている人は接種券を申請する必要があります。
オミクロン対応ワクチンを接種するために現在手元にある接種券を5月8日以降も利用できるのは5〜11歳のみ。現在手元に接種券があっても、ほとんどの人は接種できなくなるため注意が必要です。
◆初回接種は常時可能
政府は当初、初回接種に使用する、いわゆる従来型ワクチンの供給を昨年末で終了予定だと発表していましたが、BA・5の感染拡大に伴い延長し、今後も継続することにしています。
延岡市医師会などによると、こうした経緯から市民の中にはすでに初回接種が終了したと思っていたり、5月以降は受けられなくなると心配する声もあるということですが、「接種券のある方はこれまで通り常時受け付けますので、ぜひ接種をご検討ください」と理解を求めています。
◆「5類」移行で重要になるワクチン接種
新型コロナはこれまで夏と冬に大きな感染のピークを繰り返していて、より感染力が強いとみられる変異株への置き換わりが進んでいる現状から、専門家は今年も同様に流行する可能性が高いと見込んでいます。
「5類」移行によって陽性者(感染者)数が正確に把握できなくなるのは確実で、佐藤医師は「重症者数や入院患者数でしか感染状況が分からなくなり、対応が後手になるだろう」と懸念しています。
さらに、「常に国民の一定程度が感染している『エンデミック』になる可能性は十分ある」といい、守るべきは「重症化しやすい高齢者や、後遺症が心配される子どもだ」と強調しています。
そのために、自治体や各医師会などは5月からのワクチン接種を着実に推し進めたい考えです。ファイザー社と精度の高い調査を行ったイスラエルでは、従来型ワクチンのみを2回以上接種した場合に比べて、オミクロン対応ワクチンは死亡リスクが86%、入院リスクが81%も軽減されたというデータがあり、佐藤医師は「特に高齢者がこの時期に接種することが極めて重要」と訴えています。
また、できる限りエンデミックを抑えるためにも、9月以降に予定されている一般枠の新年度ワクチン接種を「職域、学校規模で進められないか」と提案しています。
◆接種は年1回で有効なのか
厚生労働省は、これまで「3カ月」の間隔を空けて接種することを推奨していた新型コロナワクチン(武田ノババックスは6カ月)を、新年度は1回のみの接種で計画しました。米国の対応を追った形ですが、根拠はどこにあるのでしょうか。
年1回の接種で効果が得られることを裏付けるため厚労省が示したのが記憶リンパ球(記憶Bリンパ球、CD4記憶Tリンパ球)の研究データです。
記憶リンパ球は感染・発症自体を予防する効果はワクチンほど期待できない半面、「免疫の記憶」を備えていて、感染したとしてもワクチンなどで得た重症化予防効果を維持できるといいます。
研究データによると記憶リンパ球の数は、ワクチン接種や感染で高まる抗体価のようには減衰せず、3回目のワクチン接種後6カ月までは維持されるとしています。
とはいえ佐藤医師は、「記憶リンパ球の重症化予防効果を維持するためにも、定期的にワクチンを接種した方がいいことに変わりはありません」と念を押しています。
◆自然抗体が効かないXBBにも有効
国内でBA・5系統からの置き換わりが進んでいるXBB系統のウイルスは同じオミクロン株ですが、佐藤医師によると、「過去にBA・2やBA・5に感染した人も容易にXBB系統に感染してしまう」と警告します。
XBB・1・5が大流行した米国などのデータでは、オミクロン株への感染経験がある人の再感染も多く、XBB系統は過去の感染で獲得した自然抗体を簡単にすり抜けてしまうことが確認されています。
一方、オミクロン対応ワクチンを接種した場合はBA・5への感染予防効果が52%だったのに対し、XBB・1・5の感染も48%予防できることが明らかとなっています。
同ワクチンは先述の通り、重症化や死亡を防ぐ効果もより高く、佐藤医師は脆弱(ぜいじゃく)な県北の医療体制を守るために「5類」移行後も「ワクチン接種が極めて重要ではないか」と理解を求めています。