紙上対戦もレベル高く

本紙掲載日：2021-09-03

6面

リモート会議による最終審査発表の様子（動画投稿サイト「ＹｏｕＴｕｂｅ」から）

第１１回牧水・短歌甲子園結果発表

◆優勝は渋谷教育学園渋谷（東京）－個人戦で灘琴乃さん（尚学館）入賞

　高校生が自作の短歌で感性や自己表現力を競う「第１１回牧水・短歌甲子園」（日向市主催）の審査結果がこのほど、インターネット上で発表された。

　学校対抗の部（３人１チーム）では、渋谷教育学園渋谷（東京都）が優勝した他、宮崎西（宮崎市）が２年連続の準優勝、宮崎商業（同）と星野（埼玉県）が３位に輝いた。県北から出場した延岡学園尚学館高等部（延岡市）と県立五ケ瀬中等教育学校（五ケ瀬町）の入賞は成らなかった。

　個人戦の部（個人賞）では、日向若山牧水顕彰会長賞を尚学館高等部２年の灘琴乃さんが受賞。その他、県内からは俵万智賞に平野咲良さん（宮崎大宮２年）、牧水・短歌甲子園実行委員会賞に後藤匠人さん（宮崎西３年）が選ばれた。

　今年は国文祭・芸文祭みやざき２０２０の日向市分野別フェスティバルの一つとして開催。過去最も多い１都１６県３３校５９チームから申し込みがあり、尚学館と五ケ瀬中等を含む１２校が予選を通過した。

　本選は本来、２チームずつステージに上がり、作品をアピールし合う対戦形式。今年は８月に日向市中央公民館で、観客も入れて行う予定だったが、新型コロナウイルスの感染者が増えてきたため無観客に変更された。しかしその後も感染拡大が続いたことから、昨年に続き「紙上対戦」（事前に各チームから提出された作品を、審査員がリモートで審査）となった。

　審査員は若山牧水記念文学館（同市東郷町）館長で歌人の伊藤一彦さん、歌人の俵万智さん、大口玲子さん、笹公人さんの４人が務めた。

　このうち学校対抗戦の１次リーグでは、題詠２首（「選」「口」「恋」から指定された文字を作品の中に詠み込む）のチーム合計６首を対象に審査し、４校を選出。準決勝は題詠１首（題は「向」）、決勝は自由題１首を対象に審査し、優勝、準優勝、３位（２チーム）の順位を決めた。

　個人戦は予選と本選に提出された作品の中から選考した。

　審査発表は、動画投稿サイト「ＹｏｕＴｕｂｅ」（ユーチューブ）で録画映像を配信中。審査員４人が、入賞チーム、入賞作品を発表するとともに、作品の講評を行っている。ユーチューブから「牧水短歌甲子園」で検索すれば視聴できる。

　伊藤審査委員長は「新型コロナウイルスへの危機感を盛り込んだ作品が多く、レベルの高い斬新な感覚、表現のものが数多く見られた。第１１回にふさわしい大会になった」と総括している。

　問い合わせ先は市スポーツ・文化振興課（電話日向６６・１０３８）。

　主な結果は次の通り。

★学校対抗の部

【成績】
①渋谷教育学園渋谷（東京都）②宮崎西（宮崎市）③宮崎商業（同）、星野（埼玉県）

◆優勝した渋谷教育学園渋谷（東京都）の作品
▽メンバー＝嶋津岳大（３年）、岡奎那（同）、志井晴美（１年）

【題詠「選」】

選ばれしものになりたい幼児の両手を埋める変身ベルト・志井晴美

屠殺（とさつ）、でもそれを望めばすじぐもの遠くの空を選んでなびく・嶋津岳大

紫陽花（あじさい）に選ばれたこの細路地をまっすぐ行ってわたしを呼んで・岡奎那

【題詠「恋」】

恋を知らぬといふ友人を憎みたり花粉湛（たた）へて揺るる梔子（くちなし）・岡奎那

拗（こじ）らせた恋を殺して過ごす夜の蕎麦（そば）の一把（ひとわ）は線香に似る・志井晴美

秋声（しゅうせい）が止（や）まないままだ贖罪（しょくざい）の言葉の似合う恋をしてから・嶋津岳大

【題詠「向」】

向日葵（ひまわり）が光をみつめる確かさで進路を決めるひとの眩（まぶ）しさ・志井晴美

星を名に持つカフェでただ式を解く仕切りの向こうはまだ夜じゃない・岡奎那

鍵盤（けんばん）は森林　木から木へ向かふ手指は蝶（てふ）のやうにはばたく・嶋津岳大

【自由題】

上等な羊毛コートの袖を取り冬の欠片（かけら）を着て征（ゆ）く街頭・志井晴美

流れゆかずしんと死を待つ水たまり渋谷は坂の底にある街・嶋津岳大

夕焼けの単位が枚にすり変わりフォルダの中にさっと収まる・岡奎那

◆本選出場・延岡学園尚学館高等部の作品
▽メンバー＝望月颯太（２年）、髙島啓太（同）、灘琴乃（同）

【題詠「選」】

五文字より選び抜かれし祖父のＬＩＮＥ蟻十匹と余白一行・灘琴乃

選ばれし勇者（４７）は母に切り込んで「野球が見たい!!」阪神ＶＳ巨人・望月颯太

（ロックオン）選んだ本を手に取れば我を忘れて万引き寸前・髙島啓太

【題詠「恋」】

荷解（にほど）きは服のシワさえ恋しくて　クリームソーダがしゅわっと香る・灘琴乃

恋バナに興味はないと澄まし顔寝入ったたぬきの夜はまだ明けぬ・望月颯太

親友と恋のベクトル交差して点滅の青加速していく・髙島啓太

【題詠「向」】

炎天下向かい風吹く月曜を追い風に変えペダル踏み込む・髙島啓太

昨日より二センチ髪を高く結い向かうは君の目の前の席・灘琴乃

前向けと言われて後ろを向くヤツとテープを切った二人三脚・望月颯太

【自由題】

［日直］の下の相合傘を見て黒板を消す右手がにぶる・望月颯太

晴れてくれその一言でフラグ立つ明日の遠足大雨警報・髙島啓太

本当はどんな気持ちか聞いてみたいＳＮＳで笑う文字たち・灘琴乃

◆本選出場・五ケ瀬中等教育学校の作品
▽メンバー＝河野雅久（２年）、鳥屋尾晨（同）、齋藤武志（同）

【題詠「選」】

コンビニでバニラ選ばずチョコミント甘くて苦くて少ししょっぱい・河野雅久

紙切れに「選別」されたあいつらに「分別」もされぬ僕に「決別」・鳥屋尾晨

ボトルには「厳選茶葉」の文字目立つ「選外茶葉」の行方や如何（いか）に・齋藤武志

【題詠「恋」】

親父の味噌（みそ）汁恋しくなって電話する「また食べたいなぁ」「いつでも来なよ」・河野雅久

恋文についた「既読」の黒文字で心のキャンバス虹色へ変わる・鳥屋尾晨

中一で初めて知った恋の意味「レモンと砂糖一対一の人」・齋藤武志

【題詠「向」】

わが母に涙を堪（こら）え笑顔で送る十年越しの手向けの花を・河野雅久

日向夏酸っぱく苦い恋のよう包まれていたい白い綿にて・鳥屋尾晨

行きつけの日向の温泉クローズドオーストラリアの風呂友恋し・齋藤武志

【自由題】

ひぐらしのなき声にきく儚（はかな）さよ悲哀（かなかな）かなカッ・・・七日目の夜・河野雅久

アッラーの教えを知らぬ私など貴女（あなた）にとってふさわしくない・齋藤武志

魚影向け釣り糸垂らし見上げれば蒼空（そうくう）ただようイワシ雲の群れ・鳥屋尾晨

■個人賞
【若山牧水記念文学館長賞／館長伊藤一彦】
福岡県・福岡女学院高３年辻愛生
雨粒が急に大きくなるように口から溢（あふ）れ出てくる本音

【俵万智賞】
宮崎市・宮崎大宮２年平野咲良
口癖の「たぶん」「かもね」が似ちゃったな婉曲（えんきょく）してる君が好き　かも

【大口玲子賞】
山梨県・甲府東３年深澤希実
選曲は三年前とおんなじで私のパート妹が吹く

【笹公人賞】
三重県・高田２年岸本花梨
店頭に沈黙のまま列を成す選び抜かれた林檎（りんご）ばかりが

【日向若山牧水顕彰会長賞／会長那須文美】
延岡市・延岡学園尚学館高等部２年灘琴乃
昨日より二センチ髪を高く結い向かうは君の目の前の席

【牧水・短歌甲子園実行委員会賞】
宮崎市・宮崎西３年後藤匠人
鶏を万で数える殺処分「死者九名」の見出しのとなりに

【牧水・短歌甲子園ＯＢＯＧ会「みなと」賞】
東京都・渋谷教育学園渋谷３年嶋津岳大
耳鳴りをきちんと最後まで聴けばきっと宇宙の端のひろがり