なつかしいふるさと県北の思い出（９）
本紙掲載日：2021-09-06
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木村チヨ子さん（延岡市）提供��
◆お葬式、土葬の文化
みこしを囲む正装姿の人たち。実は、これは６０年以上前の葬式の風景。みこしのように見えるものがひつぎだ。
提供者の木村チヨ子さん（７９）＝延岡市三須町在住＝によると、写真は１９５７年８月のもの。祖母の告別式を終え、墓地に向かう前に別府町の自宅で写したという。
「薬品工場の南門のそばで、風呂、供給所、墓地も近くにあった」という自宅は「農家だったから庭が広かった」。写真に写る人の数から、広い庭が想像できる。
当時は土葬の時代。地域内で穴を掘る当番が決められており、葬式のたびに交代で穴掘りをしたという。
ひつぎは現代と違って縦長形で、亡きがらを、膝を抱えて座るような体勢にして納めたという。そのため、「亡くなった人の体がまだ温かいうちに、膝を立てて寝かせた」。
墓地までの道は「和尚さんを先頭に、ひつぎとその担ぎ手４人が続いた。その後に旗のようなものを持った親戚や地区の人たちがたくさん続いたね」。祖母の時は孫たちが担ぎ手を務め、「墓に履いて行ったわら草履は捨てて帰るという決まりがあり、別の人が、帰り用の履物を持って行ったと思う」。担ぎ手のわら草履は、ひつぎと一緒に穴の中に納めた。
当時は葬式もすべて家で行っていた。「同じ組の人が亡くなったら、みんな包丁とまな板を持って行き、煮しめ、すし、酢の物、寒天などの料理を作った」。墓から戻ると、その料理と酒を味わいながら故人をしのんだ。
木村さんも、身内の土葬はこの時を最後に記憶にないという。自宅で行う葬式も土葬の文化も、今では想像すらできない人が多くなり、「変わったねー」と、懐かしそうに振り返った。