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「おーい、生きてるよー」
◆13、14日、延岡総合文化センター
延岡市のシニア劇団「のべおか笑銀座(しょうぎんざ)」(橋本由香里座長)の第回公演「おーい、生きてるよー」は13、14日、延岡総合文化センター小ホールである。迫る本番に向け、稽古に励んでいる。
同団は2006年、翌春に控えていた団塊の世代の大量退職に合わせ、シニア世代を文化活動に引き込もうと延岡総合文化センターが設立。作・演出を劇団ぐるーぷ連代表の実広健士さん(78)=宮崎市=が担い、毎年多くの演劇未経験者が集って結団式を行い、1年に1度公演してきた。
今回の公演は、新型コロナウイルス感染症の影響で2度延期しての実現。架空の老人ホーム「ケアハウス城山」を舞台に、「家族と離れた人たちが肩を寄せ合い、それでも元気に生きている」姿を描く。
「重い題材だが明るく楽しく演じたい。死や葬式などについての話題がタブー視されている社会で育ったが、医学が進み考え方も多様化している」と橋本座長(63)。舞台を通し、世間話の中で老後や親のことについて話すことができる時代になることを期待しており、「考えるきっかけになれば」と話す。
実広さんは年齢や体調などの理由から、今回の公演を最後と決めている。団員の今後については公演後に話し合って決める予定だが、団員たちは「今回が集大成。今まで教わってきたことを気負わず自然に出せたら」と意気込んでいる。
13日は午後7時から、14日は同2時からで開場はそれぞれ30分前。チケットは全席自由で1300円。余裕がある場合、当日も販売する。問い合わせ先は延岡総合文化センター(電話延岡22・1855)。9日は休館。
脚本・演出−実広健士さんに聞く
『私たちは社会的には何も成さなかった。
だけど、〃宇宙的〃に生きてきた70年80年を誇らしく感じられるお芝居を作ったつもりです。』
2006年の設立時から、脚本、演出担当として劇団の指導に当たってきた実広健士さんに、今回の公演や笑銀座への思いを聞いた。
−−この公演を一区切りにすると聞いています。
これも年です。体力が続かないなと思って2年前に「これ(2020年5月に予定していた公演)が最後」と言っていたのですがコロナが来まして。無理だと言いながら、2年間引っ張ってきた公演です。そういう意味でやっとできるうれしさと、これで終わりかという寂しさと二つありますね。
−−コロナ前とコロナ明けで脚本を変えたと伺っています。
お芝居は事件が起こり、それをどう解決するかというストーリーで成り立っているんです。物語があるわけです。事件を起こす人、解決に努力する人たちがいる。それでお芝居が成り立っている。
でもそれは私たちのお芝居じゃない。だって私たちは70年、80年生きてきて、何の事件もなく、名もなく、功を得たわけでもなく、一生を終えるわけじゃないですか。そうすると「私の一生は何だったのか」と思うわけなんです。財を成さなかった、名を成さなかった、功を成さなかった、「私の人生寂しいな」と思うわけなんです。
でも本当にそうなんでしょうか。お芝居は社会を描くものですから、功を成し、財を成し、名を成すことは社会のことです。しかし私たちは社会的に生きているのと同時に、宇宙的に生きているといいますか、社会を取り除いても生きているのですから。それは大変大切なことだと思っています。
今回に限らず、笑銀座のお芝居は事件が起こらないんです。日常の何でもないことが実は何でもないことではない、大切なことなんだよって。役者が現実の自分を演じることになっているからです。
凶悪な犯人をやるわけでも、それを謎解く探偵をやるわけでも、あるいは文学的な恋物語をやるわけでもない。
私たちは社会的には名もなく、貧しく、功を成さなかった。だけど、宇宙的に生きてきた70年後、80年後、誇らしく思わなければいけないと思っているんです。誇らしく思えるようなお芝居を作りたい。ですから今回のお芝居は、そういうお芝居です。
孫ができたとか、9日はうまいものを食ったとか、おいしいお茶をいっぱい飲んだということを喜ぶような。でもこれでは普通はお芝居にならない。ドラマチックでないから。お芝居にならないようなことをお芝居にしたいと思ってやってきました。今回は特にそうです。
−−今回は特にというのは。
現実に全部お年寄りしか出てこない。劇の中の登場人物ではあるけれど、現実の自分でやれるはずなんです。自己表現、演技することの楽しさを味わってほしい、知ってほしいと思う作品なんです。
私の一生は何だったのだろうと思っていると思うんです。だって世界旅行ができるわけでも、外車を乗り回すわけでも、財産をつくったわけでもない。人がうらやむような立派な仕事をしたかというと、そうではない。ごくごく平凡な、人並みなことしかやっていない。それでも生きてきたことが大事なこと、大切なことだと出演者自身が思い信じる、そういうお芝居を作ったつもりです。
−−毎年結団式の時に、皆さんに1年生だとおっしゃってきました。
劇団そのものが常に1年生なんです。60、70歳近くなってお芝居を始めるので1年生なんです。だから1期生、2期生…という呼び方をしてきたわけなんです。年ごとに解散して、新たに応募する。そういうふうにやってきたし精神も一緒。ですから今でも皆さんは1年生だと思っています。
お芝居はうまくなる必要はないと思っています。うまくなるというのは、うそがうまくなる、〃ふり〃がうまくなるんです。本物がうまくなるわけではないんです。「芝居じみている」という言い方をするわけですから。私はそういう指導をしたつもりはない。演技がうまくなるのは駄目なんです。それは専門の役者がやればいい。私たちはどれだけ真剣に生きているかを表現すればいい。うまくなる必要は全くないと思っています。
事件を起こし、日常あり得ないことが起こって、それが面白くてお芝居が成り立つのが普通のお芝居ですが、それは嫌なんです。うそですから。
60すぎたじいちゃん、ばあちゃんがお芝居をしようかという時、うそを演じる必要は全くないわけで、60年70年生きてきた自分がどれだけ真剣に真面目に生きてきたかが分かればいいわけですから。そういうお芝居を作りたいと思っていました。ベテランも毎回1年生だと思っています。自分を表現するのがうまくなった人はいます。自分が日常をどう生きているかということを、考える人たちが出てきたからでしょうね。
−−最初に作・演出として声が掛かった時はいかがでしたか。
自分も同じ年齢だったからうれしくて、「ぜひ私にやらせてください」ってお願いしました。
名前はみんなで付けました。笑いのある楽しいお芝居をシルバー世代で作ろうよと。笑いのある楽しい年寄り集団です。
−−笑銀座の存在は。
かわいいです。私の言うことに反抗しないんです。素直に従ってくれるんです。うれしいですよ。私の考えている芝居を否定せずに一生懸命、役者という立場で表現してくれるわけですから。
私の芝居観を素直に受け入れ、決してうまくならず。今、褒めているんですよ。決してうまくならずに私の芝居をやってくれた人たちが好きだったので、もう少し前に手を引くタイミングはあったのですが、続けました。ただ今回で手を引きます。もともと、演出と脚本は私がやるからと呼び掛けて集まった人たちですので、今の状態では団員だけで続けることはできない。後継者が育てられなかったことの反省、悔やみはありますし、残念で悲しいです。
−−最後に皆さんへ。
劇が好きで仕事をしていますけど、ある出来事が起こり物語を成すのがお芝居、劇で、嫌いです。
でも「笑銀座のお芝居を見に来て」とは言いたい。笑銀座のお芝居は、見に来てくれた皆さんとのお芝居なんです。何でもない日常を送ってきた(と思っている)人たちに見てほしいです。
名もなく、貧しく生きてきたことは決して意味のないことではないよ。名もなく、財も成さなくても人生は大切なことだったんだよ。そう感じてほしい。
公演が満席になるときは、そういうことを知らず知らずに感じてくれている人たちがいるからだと思っています。面白いと見てくれるのは、「俺をやってくれている」と思っている人がいるのだと思う。そういう意味では、呼び掛けたい。ぜひ今回も来てほしいです。
【プロフィル】実広健士=劇作家、演出家。西都市の妻高校在学時に演劇と出会い、芝居歴は60年以上。卒業後は、国家公務員、県職員として働きながら、芝居を続けてきた。1973年に「劇団ぐるーぷ連」を旗揚げし、現在も代表を務める。宮崎市在住、78歳。