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西郷の山須原で穿入被害−美郷町
カシノナガキクイムシ(通称カシナガ)による穿入(せんにゅう)被害が1月下旬、美郷町西郷の山須原で確認された。森林総合研究所四国支所、主任研究員の後藤秀章さん(51)によると、今回の被害で、県北にカシナガが分布していることが初めて確認されたという。同町北郷の炭焼き職人、奥井博貴さん(50)は「今まで被害に遭ったことはない。約20トン切って約2トンが虫に食われていた。伐採中なのでまだ被害木が見つかる可能性がある」と心配している。ただ、今のところナラ枯れ状態の木は見つかっていない。
ナラ枯れはカシナガなどの穿入でナラやカシなどブナ科の樹木が枯死する現象。被害に遭うと、夏でも葉が紅葉のような色に変わる。根元付近には木くずと幼虫のふんが交ざった「フラス」が堆積、幹には直径約1ミリの穿入口が見られる。
原因となるのは、法定害虫に指定されている体長約5ミリのカシナガ。成虫は病気を引き起こす菌を体に持っており、感染した部分の細胞が死ぬと水分の通り道「道管」が目詰まりを起こす。その結果、通水障害が起こり枯れる。
被害は先月下旬、奥井さんが所有する山須原の山で確認。備長炭の原木、アラカシなどを切っていた奥井さんが、内部の孔道(虫の掘った穴)に気付き、樹皮にある直径約1ミリの穴も確認した。
備長炭の産地で知られる和歌山、高知県で穴の空いた炭ができていることを聞いていたことから、被害木の写真を知人の樹木医、宮田義規さん(36)=宮崎市=に送ったところ、「カシナガの被害」と診断されたという。
これまで県内では、2015年に県央以南の13市町村で大きな枯死被害が発生している。特に宮崎、日南市、綾町で被害があり、総被害量は国有林3000立方メートル、民有林2010立方メートルにのぼっている。
この時に県は、他県と情報共有や対応方針を協議し、被害拡大防止のために伐倒木を外に運び出さないよう注意を喚起するなどして対処。県自然環境課によるとそれ以降は樹木が枯れる被害は減少傾向にあるという。
県北の枯死被害は、「記録が残る12年以降確認されていない」ということだが、全国的に被害は拡大している。その背景には森林管理の在り方の変化が考えられるという。
宮田さんは「カシナガは直径10センチを超える樹木に穿入し、直径30センチ以上はダメージが大きくなる。薪炭林が伐採されなくなったことで、カシナガの好む太い木が増えたのでは」と語る。
今後、周辺の林で「ナラ枯れ」に発展するリスクはあるが、後藤さんは、「この地域ではナラ枯れが発生しても1、2年で落ち着く傾向にある上、林の木が全て枯れることはない。被害を減らすために、森を痛める可能性もある伐倒駆除といった防除の必要性は低い」とみている。
◆宮崎で発見は1935年−新種として論文で発表
カシナガによる被害が国内で初めて確認されたのは戦前の1935年ごろ。場所は本県の高原町と山之口村(現・都城市山之口町)、鹿児島県田代村(現・錦江町)だった。
被害が目立ってきたのは90年代から。その後、九州で被害が徐々に広がり、2018年に長崎、19年に佐賀、福岡、熊本県で確認された。先に被害が確認されていた宮崎、鹿児島からの拡大と思われそうだが「断定はできない」と後藤さん。理由は、各地にもともと生息していた可能性があるためで、「カシナガは宮崎と新潟で発見されて1925年に新種として論文で発表されている」からという。
全国のナラ枯れ被害は12年前にピークに達し、以降は減少。ただ、2020年度は前年比の約3倍に増加しており、北海道と愛媛、大分、沖縄を除く全ての都府県で確認されている。
枯れるのは、ブナ科のコナラ属やクリ属、シイ属、マテバシイ属の広葉樹。特にコナラ、スダジイ、マテバシイなどが被害を受けやすい。ブナ属のブナとイヌブナは現在、穿入されても枯死した例は確認されていない。
後藤さんは「一般的な林については防除の必要性は低い。だが、倒木や落枝による二次被害が考えられる場合は、枯死木を除去すべきだ」と薦める。一方、観光資源になるような木については「予防を検討した方がいい」と話していた。