ココカラＳＤＧｓ－第１６回「旅から考えるＳＤＧｓアクション」（下）

本紙掲載日：2022-07-26

6面

◇宮崎、学びの場として今熱い－執行さん
◇これからは新しい豊かさで－山﨑さん
◇ＳＤＧｓはｊｏｕｒｎｅｙ（長い旅）－難波さん

－－ここで改めて、今回のテーマとＳＤＧｓのつながりを教えていただけますか。

〈難波〉今回は私からではなく、県内でいち早く「旅」を視点に取り組まれている執行さんに教えていただきたいと思います。

〈執行〉いつもの師匠のむちゃぶりですね。分かりました。実際のところ旅について言うと、コロナ禍前とコロナ禍では明らかに価値観が変わっていると感じています。コロナ禍前はインバウンド（訪日外国人観光客）を、より多く招き入れることを目標にしていました。
それが今、転換点にあって、観光の質にも注目されるようになっています。「たくさん多く来てほしい」という観光地の人もいれば、「これ以上来てもらったら生活が成り立たなくなる」という観光地の人もいて。
そんな中、消費者の意識も変わってきていて、地域住民の生活を尊重し、一方的に訪れるのではなく、その地域の文化や暮らしに静かに寄り添う旅行が増えてきています。
また、「浜辺の掃除をしてくれたら花火をプレゼントします」「ドリンクをサービスします」などといったホテルや旅館も増えていて、意識が高まってきています。
修学旅行については、コロナ禍前は「より遠くに、よりたくさんの観光地を見たい」というリクエストが多かったのですが、コロナ禍に入り、遠くに行けなくなったこともあって、地元により目を向けて、サステナブル（持続的）な地元の課題を学ぼうとする学校が出てきています。われわれも宮崎県を舞台に、関東・関西の中学生や高校生に来てもらい、学んでもらう修学旅行、いわゆるマイクロツーリズムのプログラム開発を進めています。宮崎県は今、「学びの場」として熱いです。

－－具体的に、県内で人気の修学旅行スポットはどこですか。

各地に魅力的なスポットがありますが、力を入れているのが綾町です。有機農業が有名ですが、そこには山を大事にしてきたストーリーがあり、きれいな川があり、その先に有機農業があり、生き生きと暮らしている人たちがいます。ＳＤＧｓを学ぶ上では、その地域のストーリーはもちろん、その地域の人を感じてもらうことも大事だと思っています。

－－山﨑さんは、このコロナ禍による変化をどう見ていますか。

〈山﨑〉われわれプロモーション業界も、まさに今、地方にチャンスがあると捉えており、もっともっと地方の良さを、もっともっと地方の価値を見つけて発信していくことが重要だと考えています。
ＳＤＧｓという言葉だけ聞くと、「難しそう」と感じる人はまだまだ多いと思います。「じゃあ何をすればいいの」と思いがちですが、執行さんの奥さんみたいに洗剤を見直してみるとか、私も片道１２キロを自転車をこいで通勤していますが、自分の健康に気を付けることが結果、二酸化炭素の削減につながっているという考え方とか。
そんな見え方、考え方、捉え方で貢献できるＳＤＧｓっていっぱいありますから、旅も含めて、そういうことを「ＭＩＹＡＺＡＫＩＳＤＧｓＡＣＴＩＯＮ」でも発信していきたいと思っています。

－－良いＳＤＧｓアクションは芋づる式に次々とつながっていきます。観光産業はどのようにＳＤＧｓにつながっていると思いますか。

〈執行〉一人一人がＳＤＧｓを意識した旅行をするということは、旅行先の人や文化に目を向けたり、おいしいものを食べたりすることだと思います。土地のことを知りたいと思ってもらい、その土地で取れたおいしいものを食べたいと思ってもらうことで、旅行先のレストランやその先の生産者を応援することにつながります。
良いことをしようと思って旅行に行く必要はなく、その土地を存分に楽しもうと思って行く方が、土地を輝かせることができます。また、地元の人を応援することで、地元の人がプライドを持ってさらに良いことをする。この循環ができると、観光産業の可能性が広がります。

〈難波〉地元の人が旅行に来た人から自分が持っているものに気付かされる。このことが、ずっと続いていく地域社会や人につながります。人が動くことは、地元の人が自分が持っているものに気付くきっかけになると思います。これが、子どもたちの未来を輝かせるかもしれません。

－－プロモーション業界として山﨑さん自身、力を入れていることを教えてください。

〈山﨑〉さまざまな取り組みをしていますが、特に力を入れているのは、若者の視点を大切にすることです。若者は大人と価値観が全然違います。
未来について地域や企業が考えていくには、これからの未来を担っていく若者に視点を変えないとできないこともあります。また、若者の考えをないがしろにして大人の価値観で縛り付けると窮屈になってしまいます。さまざまなタイミングで、そう感じることがあります。
若者と一緒にプロジェクトを作り上げるクライアントも多いです。時間はかかりますが、若者と一緒に考えて悩んで、新しい未来について対話を重ねることを今ちょうど始めています。これからもどんどん増えていくと感じています。

〈難波〉将来の消費者が何を求めているのか、将来の市民がどのような考えでまちを選ぶのか。ＳＤＧｓネイティブでもありデジタルネイティブでもある若者の声を聞かないと、その準備ができないということです。

〈山﨑〉若い世代は資本的な価値よりも心の豊かさを求めている傾向があると思います。ある大学の教授によると、経済学で著名な人がビジネスやマーケティングについて話すより、猟師が狩猟の話をして山の恵みを頂くという話をした方が、子どもたちの目が輝いているそうです。
今の若い世代は資本的な価値がある程度満たされていて、われわれが小さい頃に体験したような心の豊かさ、山の豊かさ、地域の豊かさなどに触れ合い、感じ、感動することを実は求めているのだと思います。心の豊かさの価値をいかに資本的な価値に変換してあげるかが重要になると思います。
宮崎県は陸の孤島と呼ばれています。行きにくく、外からの文化も入りづらいといったデメリットがあります。しかし、地域の文化やお祭りはたくさん残っています。今までは陸の孤島でしたが、これからは新しい豊かさで日本一になれる気がします。

－－最後に、皆さんのありたい未来を教えてください。

〈執行〉山﨑さんと私には小さい子どもがいます。彼らの世代が自分らしく幸せを感じることができる未来であってほしいです。幸せにはさまざまな定義がありますが、精神的にも自分らしく窮屈な思いをせずに生きていけるような未来を願っています。

〈山﨑〉かっこいい大人がたくさんいる未来になってほしいです。子どもたちがこんな大人になりたい、まねしたいという社会は必ず良い未来になると思います。
また、頑張りすぎないことが非常に大事です。頑張りすぎて心が病んでしまうなど、自分自身が持続可能ではない人が多くいるのではないかと思っています。無理をせずに身近なものに新しい価値を見つけて、未来を担う子どもたちと対話することで、きっとすてきな大人になれますし、そのような大人が増えていけば明るい未来になると思います。

〈難波〉今回は「旅」というテーマでしたが、実はＳＤＧｓは、長い旅を意味するｊｏｕｒｎｅｙ（ジャーニー）と言われています。ゴールは決まっていますが、行き方はどのような方法でもいい。正解はないのです。わくわくしながらゴールに向かって、みんなで進んでいけたらいいのかなと思います。

【第１６回の出演者】
〈ゲスト〉ＪＴＢ宮崎支店（宮崎市）営業課長の執行覚さん、ＡＶＣ放送開発（同）営業本部副部長の山﨑智広さん
〈アドバイザー〉ＳＤＧｓコミュニケーター難波裕扶子さん（日向市）
〈ナビゲーター〉松田祐子さん（ＦＭのべおか）

□第１６回の再放送□
２８日午後８時、３１日午前１１時からの２回

（おわり）
□第１７回の内容□
〈テーマ〉「新しい教育から考えるＳＤＧｓアクション」。
〈ゲスト〉延岡市長の読谷山洋司さん、ＴＯＯＴ（トゥート、本社・東京都）の社長・枡野恵也さん。

〈放送日〉８月１８日午後１時から。
〈再放送〉８月２５日午後８時から、同２８日午前１１時からの２回。