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「言い表せない喜び、ひしひしと」

本紙掲載日:2022-10-05
7面
本番に向けて意気込みを話す片山九郎右衛門さん

片山さん薪能、延岡への思い語る

◆のべおか天下一薪能特集

−−3年ぶりの城山での公演。思いは。

 久々の城山での薪能に燃えている。皆さんのおもてなしの精神が子どもたちに伝わり、つながっていることが素晴らしい。とても思い入れのある薪能が久しぶりに城山ででき、口に言い表せない喜びをひしひしと感じている。

 コロナ禍で発信できない、人が集えないことの苦痛を身をもって知った。いろんな催事が中止になる中、伝統の継承は本当に難しいことだと目の当たりにした。長年かけて少しずつ砂を積み上げるような努力をしてつくったものが、1、2年もの間で崩れていってしまうほどもろいものなんだと。しかし、もろいものだからこそ、皆さん残したいという思いがあると感じる。ぜひ多くの方に来ていただきたい。

−−のべおか天下一薪能の魅力は。

 魅力は自然との調和。お客さまが自然の湿度や風、明かりを感じつつ、千人殺しの石垣が前に迫ってくるような面白さは、薪能でないと味わっていただけない。

 能は野外で行うのに適している芸能。ロケーションを最大限に生かして、いろいろな曲目をさせていただくことに演じる側は喜ぶ。また、お客さまは、今度はどのようにロケーションを生かすのだろうかと考えたり、自然に引き込まれたりするのも面白いと思う。

 実行委員会の皆さんには、これまでいろいろなことにご協力いただいた。最初の頃から、こうやったら面白いんじゃないかと、非常に冒険的なことに否と言わずに付き合ってくださったことに感謝したい。

 これまでの公演で、いろいろとつくり込んだ年、シンプルにつくった年もある。そのような起伏を楽しんでいただいたお客さまもいると思う。これは、実行委員会の皆さんが覚悟して付き合ってくださったから。そのため余計に思い入れがある。

−−今年は地元の子ども7人が出演する。

 演じる側に感じてほしいのは、その日一日、その人になって生きるということ。何かになったつもりではなく、舞台にいる間はその人物として生きているということを感じてほしい。

 芝居は、知らず知らずのうちに自分が舞台の中に入り込み、そこで生きているという共感によって支えられている。子どもたちが出演することで、若年層のお客さまが舞台の上に共感を持ってくれると信じている。

−−当日、子どもたちに望むことは。

 子どもたちの素材の良さが舞台の上で発揮されたときに、曲目の中の一筋悲しい部分がよりクローズアップされたり、ストーリーが光ったりすることがある。素材の良さを発揮してもらうために力強く、元気よく、真っすぐに演じてほしい。

 子どもたちはお稽古でよく覚えてくれた。これは私の力ではなく、この20年の間に培ってきた子どもたちの努力が綿々とつながっているからできていること。そして、地元の方が見守ってくださり、教えるという地道な作業がつながっているからこそできること。とても感慨深いものがある。

 子どもの出演は、2002年に公演した鞍馬天狗の時からつながっている。この薪能から始まり、別の自治体での催しにも子どもが出演するスタイルが広がっていったように感じる。その先駆けとして、皆さんにお付き合いいただいたことにも感謝している。

−−21年前と同じ会場で能「土蜘蛛」を演じる。

 「土蜘蛛」は、薪能で何回も公演してもおかしくない演目。しかし、他にも見てほしい演目があったこと、とっておきの時に公演したい演目でもあったため、あまり公演しなかった。今回はコロナ禍で完全復活を目指すという意味で、とっておきの開催だと思っている。

 2001年の公演では、蜘蛛の糸をたくさんまけるように、延岡市の皆さんに糸を作っていただいた記憶がある。そのようなことも思い出す。

−−能「巻絹」を演目に選んだ理由は。

 和歌には、「力をも入れずして天地を動かし鬼神を感ぜしむ」という力がある。「巻絹」は、それを礼賛する神様の物語。

 目に見えない敵と戦って、ウィズコロナで生きていこうという時代にふさわしいと思った。多様な方法でこの時期を乗り切り、良かったなと言えるような、そういう言葉の力が一番表れている演目だと思って選んだ。

−−改めて能への思いを。

 この年になって、能をやってきて良かったなと思えるようになった。自分自身も子どもの頃からやってきて、何でやっているのかと迷ったことがある。

 しかし、演目一つ一つを演じたり見たりすると心に染みてくる部分がある。そういうものが次の世代につながってほしい。子どもたちが続けていくことは、僕の希望でもあり、未来のともしびでもある。ぜひ続けていってほしい。

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