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歌人、若山牧水の世界に触れる

本紙掲載日:2023-08-02
7面

伊藤一彦さんら音楽バックに朗読

◆「生きる喜び与えてくれる人」

 「『ほう、ぽんぽん』という音がする。ああ、もう牧水が散歩してるなと思う」これは、北原白秋が若山牧水との思い出を書いた随筆の冒頭。これら牧水を巡る人々の作品や牧水自身の短歌、妻や友人に宛てた手紙などを、音楽の生演奏をバックに朗読する催しが7月22日、延岡市の野口遵記念館であった。昨年、宮崎市で小規模に開かれ、延岡市では初めて。会場には多くの牧水ファンが訪れ、言葉と音楽から脳裏に浮かび上がる景色を楽しんだ。

◇トーク交え楽しく

 催しは「短歌音楽トークが織りなす牧水の物語〜いとしの牧水」。歌人で若山牧水記念文学館館長の伊藤一彦さんと、フルート奏者で企画プロデューサーでもある外山友紀子さんの2人でつくる「グループうみやま」が企画した。コロナ禍でダメージを受けた舞台芸術の再興を目指す「JAPANLIVEYELLprojectみやざき」が同グループと野口遵記念館をつなげ、延岡市での開催が決まった。

 元MRTアナウンサー関知子さんが進行で、伊藤さんと中村佳文さん(宮崎大学教授)が解説、朗読。音楽は、和田恵さん(ピアノ、作曲)と外山さんら5人が務め、牧水をイメージした和田さん作曲の五重奏曲を演奏したり、朗読のBGMとして、既存のクラシック曲を独奏したりした。

 この日のために伊藤さんが行った、延岡高校対象の短歌募集で特選となった染矢咲綾さん(2年)と後藤結莉花さん(同)も、ギターの生演奏をバックにそれぞれ自分の作品を朗読した。

 牧水と白秋は早稲田大学時代、2度も同じ下宿に住むほど仲が良かった。大悟法利雄著「若山牧水新研究」によると、口で鼓を打つような音をさせるのは、当時の牧水の特技だったという。それが「ほう、ぽんぽん」。伊藤さんや中村さんの推測では、牧水が好きだったツツドリの鳴き声のまねではないかという。

 白秋の随筆は「無帽の、づんぐりした着物の小男が両手を、開いた口の前でぽんぽんと拍(たた)いてゆく」−と続く。関さんが、和田さんのピアノ独奏をバックに朗読した。言葉と呼応するようなピアノの軽快なリズムが、来場者を楽しませた。

 中村さんは、新婚の牧水が妻喜志子に宛てた手紙「浪(なみ)より浪のうまるるごとく、御身(あなた)の良人(おっと)より歌が生れてゐる…」や、旧制延岡中学校(現延岡高校)からの親友平賀春郊に宛てた手紙などを朗読。

 伊藤さんは、「ふるさと」「恋」「自然」をテーマに3首ずつ選んだ牧水の歌を朗読したほか、自身が牧水をいとしんで詠んだ4首を披露した。このうち次の1首は新作。「生涯を鳴らし鳴りたるあくがれのこころの鉦(かね)と城山の鐘」

 最後に「牧水は、私たちに生きる喜びを与えてくれる人。延岡、日向の皆さん、県民全体でもっともっと牧水を勉強し、盛り上げていきましょう」と呼び掛けた。

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