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名もなき人たちの小さなドラマ

本紙掲載日:2023-09-02
7面

劇団こふく劇場「ロマンス」−9、10日に門川町総合文化会館

 劇団こふく劇場(都城市)の第17回公演は9日午後7時からと10日午後2時から、門川町総合文化会館の舞台上特設ステージである。全国9カ所を巡るツアーの幕開け公演。2021年初演の作品「ロマンス」を再演する。同劇場代表で作・演出を手掛ける永山智行さん(56)に見どころなどを聞いた。

◆旅の始まり「見届けて」

−−どのような物語ですか。

登場人物はみんな私たちのすぐ隣にいるような人たちです。元郵便局員の60代男性、小さな飲み屋を営む40代女性、警備会社事務員の20代女性、無職の20代男性。
さまざまな別れを胸に抱えながら生きている4人の平成最後の1年間の物語で、四つの小さなドラマが重なったり離れたりしながら描かれます。

−−「小さなドラマ」とは。

私たち劇団こふく劇場は、三股町立文化会館のフランチャイズカンパニーとして町民参加の朗読劇などに取り組んでいます。
子どもから高齢者まで町民の皆さんと濃密に関わっていく中で、歴史に残るわけもない一人一人の人生の小さなドラマと出合います。
そういうものをすくい上げ、名もなき市井(しせい)の人たちの人生を垣間見るような作品を作りたいという思いが、ここ数年大きくなってきました。

−−なぜ門川町で幕開け公演なのですか。

門川町とは演劇ワークショップや作品の上演を通し、二十数年のお付き合いです。北は北海道札幌市から南は沖縄県那覇市まで、来年2月に三股町で終わる今回の旅の始まりを、ぜひ門川町の皆さんに見届けていただき、「いってらっしゃい」と送り出していただきたいのです。
十数年前からは門川高校3年生に、文化祭で発表する演劇を指導しています。演劇は何もないところから作らなくてはいけません。そして一人では決してできません。仲間ともめながらも、どうにか仕上げて、どのクラスも自分たちの作品が一番だと胸を張って本番を迎えます。
何でも一人でできることがすごいという、今のこの社会の中で、人間は人と人が手を貸し合って、借り合って生きていくものという本質的な部分が、この体験を通して彼らの体の中に埋まっていくといいなと思っています。

−−全国ツアーでは他に、いつもこだわって行く場所があるそうですね。

原発事故で今なお苦しんでいる福島県いわき市と、被爆地である広島市です。そこでは名もなき人たちの暮らしや人生が、いろいろな形で今も奪われ続けています。
原発も原爆も、私たち人間が求めてきたことでもあります。知らないふりはできません。その思いを作品にも込めています。

−−タイトル「ロマンス」が意味するものは。

ラブロマンスも含めて人と人が出会うことは、とてもロマンチックなことです。いつ誰と出会うのか、それはどんなにお金を積んでも、どんなに偉くなっても、自分ではどうすることもできません。その尊さを作品にしたいと思ったのです。
一人一人の人生の小さなドラマの中に、本当はとても大きなものがある。つまりロマンスとは「生きている」ということではないでしょうか。

(おわり)

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