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おみすぎぬ神事を舞台で再現−日向
◆昭和7年まで還暦女性が布を織って奉納
国文祭・芸文祭みやざき2020の日向市分野別フェスティバルの一つ「お船出ものがたり異聞」が8日、同市文化交流センターであった。神武天皇お船出の地、美々津を舞台にした出立の物語。神話の世界も織り交ぜながらそこに住む人たちの人間模様を演じ、約600人の観客を魅了した。
同劇は、日向市民らでつくる「お船出ものがたり実行委員会」(三股晶子代表)が、2015年に記紀1300年祭の一環で始め、回を重ねてきた「お舟出ものがたり」の最新〃国文祭バージョン〃。世界的に知られる衣装デザイナーで、パフォーマーでもある時広真吾さん(山口県出身)を総合プロデューサーに、新たなストーリー、登場人物を加えて仕立てた。また、月読命(ツクヨミノミコト)役で、同じく世界的に活躍するバイオリニストで、日向市と縁の深い古澤巖さんが特別出演した。
上演前にあいさつに立った時広さんは、「主人公は宮崎の地の地元の皆さん。古澤さんや専属のパフォーマーで脇を固めながら、より高いレベルに仕上げた。(観客の)皆さんも一緒に船に乗って出発する、という思いで見守ってほしい」と呼び掛けた。
今回の劇の内容には、美々津がお船出の地に比定された理由の一つであるにもかかわらず、地元でもその記憶が忘れられかけていた機織り神事「おみすぎぬ」を取り入れた。
還暦を迎える女性らが、みそぎをして60日間神社にこもり、機を織って布を作り、海岸に棚をしつらえてささげる神事。1932(昭和7)年まで続いていた。
劇は「機織り女」3人が布を縫う場面から始まった。おみすぎぬの言い伝え通り、できた衣をささげると天女が舞い降り、衣装を改めて天上へ舞い戻る。
語り手が「皆さんはご存じだっただろうか。なぜ、神倭伊波礼毘古命(カムヤマトイワレビコノミコト)さまたちは東征、船出の場所に美々津の港を選ばれたのか―」。黒幕が降り、「お船出ものがたり異聞」の文字が浮かび上がった。
天女をはじめ、天照大御神(アマテラスオオミカミ)、宗像三女神(ムナカタサンメガミ)らが、高潔で神格が表された衣装で登場。
美々津の男たちは、国の平安を願い、志を持って出立しようし、女たちは不安を抱きながらも準備を進める。人々の思いの中で葛藤するイワレビコノミコトのドラマを演じた。古澤さんは、幻想的なバイオリンの演奏でイワレビコノミコトらを導いた。
見どころの一つだった衣装は、時広さんのオリジナル作品をはじめ、日向市や延岡市民が寄付した布を使って時広さんがデザインし、地元の人たちが縫製したものが使われた。
また、開場時は、県立富島高校3年生の35人がボランティアで参加。手指消毒やチケット受け取り、座席への案内を行うなど、市民の力で舞台成功をサポートした。
友人が出演していたという日向市原町の中川加世子さん(56)と高鍋町の岡野江里さん(48)は「コロナ禍ではあるが、感染対策をしっかりした上で上演してくれて、生で見られたことは良かった。感動が違う。衣装もきらびやかで、すごくすてきな公演だった」と話した。