神が宿る花笠－半年以上かけ手作り

本紙掲載日：2021-08-12

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県と市の無形民俗文化財「伊形花笠踊り」

◆８月１５日奉納

　県と市の無形民俗文化財に登録されている「伊形花笠（はながさ）踊り」は、伊形地区に４００年以上も前から続く伝統芸能。毎年８月１５日、踊りの発祥とされる日枝神社（石田町）で奉納する。

　住民らで構成された「伊形花笠踊り保存会」（重黒木實行会長）は毎年、神を招き、宿るとされる花笠を半年以上かけて手作りする。今年も年明けの１月中旬から始め、月に数回集って、神事で用いる神様用の１個と、夏休みに練習して奉納する小学生用の１１個を作った。

　竹、和紙など、使う材料は昔からほとんど変わっていないという。道具や型紙なども、花笠が作りやすいように手作りしたものだ。踊りと同様、代々大切に受け継いできた花笠作り。長い期間をかけて作る現場を追った。

　重黒木会長（８１）によると花笠作りは代々、会員の一人が中心となり、他の会員が手伝って準備していた。消防団が担った時期もあったという。

　幼い頃から花笠踊りが身近な存在だった重黒木さんが歌い手として誘われ、保存会員として活動するようになったのは２５年ほど前から。花笠作りは最初は手伝いだったが、今は中心となって指示を出しながら作っている。

　花笠は、踊りを奉納した後、それぞれの舞い手が持ち帰り、守護神として祭る風習がある。二十数年前から、伝統文化継承などを目的に地元の伊形小児童に踊りを教えるようになってから、より丁寧に時間をかけて作るようになった。「孫が踊ったからガラスケースを買って保存した」という話を聞くようになったからだ。

　苦労は多いが手抜きはしない。「文化財らしいことをしないと」と言葉に力を込める。「子どもたちに喜んでほしい。そして続けてほしい」と願いも込める。「伝統だけは守らんと」。長年受け継いできた地元の人たちの強い決意がある。

◆伊形花笠踊り

　由来は諸説あるが、７日７晩にわたり続いた津波が、村人たちが避難していた小高い丘にある山王神社（現在の日枝神社）にどこからともなく現れた７羽のシラサギの舞によって収まったことが由来とされる。

　以来、農村、農耕の無事を祈る地区の「龍神祭」に合わせて踊りを奉納。シラサギに扮（ふん）し、白装束を着た男性７人が全３番を踊る。

■工程

　最初は竹の調達から。直径５センチほどのメダケ、直径１・５センチほどのシモトダケの２種類を使う。

　メダケは竹ひごや頭に直接当たるリング部分に使うため、痛くないよう節と節の間が長いものを選ぶという。

　調達した竹は早速、裁断し、なたで縦に割いた＝写真①＝。細く削って＝写真②＝何度も「ひご通し」と呼ばれる作業を繰り返し＝写真③＝ひも状にする。力のいる作業だ。

　竹ひごは、笠に飾る五つの花の茎となるため、緑色の色紙を巻き、約半年間カーブ状に固定する＝写真④＝。カーブが甘いと、舞う時に花が違う方向を向くという。

　リング部分は、幅１センチほどの平たい棒に加工。一方、もう一つのシモトダケは、笠の支柱となる部分に使う。ガスバーナーであぶりながら中心から４等分に割って、先端に穴を開け、糸でリングと固定。リングをきれいな円形にするため、しばらくの間、漬物用のたるに入れた。接着剤と糸で固定すると骨組みは完成だ＝写真⑤＝。

　同時並行で、笠の上に飾る色画用紙の花のキク、サクラ、スイセン、アヤメの型抜き＝写真⑥＝、ハスのつぼみ作り、五穀豊穣（ほうじょう）を願う５色の色紙に切れ込みを入れる作業などを進める。花笠は、奉納前の龍神祭で神を招き、神が宿るとされているため、舞い手は、人としての顔を見せないように、小さなひし形が等間隔で開けられた前垂れ＝写真⑦＝で顔を隠して舞う。障子紙に１２等分の切り込みを入れた後ろ垂れ＝写真⑧は一年を意味する。

　それぞれがそろった６～７月に組み立てる。笠には障子紙を貼り、５色の紙で作った中垂れを糸で縛ってくくりつける＝写真⑨＝。笠の中心に花を差し込み、動かないように竹のくさびで固定すると、ほぼ完成だ＝写真⑩＝。

　踊りを奉納した翌日、新浜町の海岸で、笠に宿った神様に感謝し、神様用に作った１個を海に帰す儀式「笠流し」が行われる＝写真⑪（昨年撮影）＝。