「橋弁慶」と仕舞に子ども５人が出演

本紙掲載日：2021-09-22

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国文祭・芸文祭みやざき２０２０－第２４回のべおか天下一薪能

◆１０月９日、延岡総合文化センターで開催

　「第２４回のべおか天下一薪能（てんがいちたきぎのう）」は１０月９日午後５時３０分から、延岡市東浜砂町の延岡総合文化センター大ホールで行われる。

　国文祭・芸文祭みやざき２０２０分野別フェスティバルの一つで、ＮＰＯ法人のべおか天下一市民交流機構主催。

　これを前に今月１５日、同薪能に出演する観世流能楽師シテ方・片山九郎右衛門さん（５６）が来延し、出演する地元の子ども５人との稽古を公開。翌１６日には同交流機構の松下宏理事長（７６）、酒井修平副理事長（７１）、福田政憲事務局長（６８）らと会見を開き、２年ぶりとなる同薪能への思いを語った。

　演目は、同薪能では初公演となる能「橋弁慶（はしべんけい）」のほか、２００５年以来２度目の公演となる能「葵上（あおいのうえ）」、大蔵流狂言師の茂山千五郎さん（４９）らによる狂言「仏師（ぶっし）」。

　能「橋弁慶」では、牛若丸（子方）役を下沖花萌（はるも）さん（１７）＝延岡星雲高２年＝、武蔵坊弁慶の従者（トモ）役を川﨑将宏さん（１２）＝延岡東小６年＝が務める。

　また、友清茉耶さん（９）＝延岡小３年＝が仕舞「老松（おいまつ）」、鮎川愛美さん（１７）＝延岡星雲高２年＝が仕舞「嵐山（あらしやま）」、下沖美乃莉さん（１５）＝西階中３年＝が仕舞「羽衣（はごろも）」を披露する。
この日は片山さんとの初めての稽古で、約３時間に及ぶ熱の入った指導が続いた。片山さんは子どもたちに「体全部を使って、大きな声で思い切って」などと、謡の節回しや間の取り方などを指導。能「橋弁慶」の稽古では「自分がその場にいるつもりで、そこで必死に生きているつもりで演じてほしい」などと声を掛けた。

　今回初めて出演する最年少の友清さんは「足がしびれた」と照れ笑い。「本番では前をしっかり向いて頑張りたい」と話した。また、小学２年生から出演している美乃莉さんは「女舞の美しい所作や扇の表現を見てもらいたい」と話した。

　能には例年、同市に残る内藤家旧蔵の能面が使用される。今回は能「葵上」に登場する六条御息所（ろくじょうのみやすどころ）の怨霊（シテ）役に「泥眼（でいがん）」などが使用される予定という。

　チケットは指定Ｓ席８０００円、自由Ａ席５０００円。はがき、ファクス、メールのみで受け付けている。指定ＳＳ席１万円は完売した。詳しくは同交流機構（電話延岡３３・０２４８）へ。

　また、新型コロナウイルス感染防止のため、座席を従来の半数となる６５０席に限定し、入場の際は検温、手指消毒、マスク着用、名簿作成などの対策を徹底する。

◆コロナ禍で２年ぶり「それでも生きています」片山さん
　会場変更「つないでいくため冷静に判断」福田さん

　会見の要旨は次の通り。

－－２年ぶりの公演。思いは。

〈片山〉こんなに長く延岡を訪れなかったことは、この２５年間なかった。ようやく延岡に戻ってくることができ気持ちが高ぶっている。このコロナ禍で私たち伝統芸能の世界も危機的な状況を迎えた。でもコロナ禍だからこそ舞台を通して皆さんに気持ちを届けたい、つながりたいという気持ちが強くある。
特に延岡には深い思い入れがある。伝えたい思いがある。いろいろな人の顔が浮かぶこの土地で、今回公演できることを本当にうれしく思う。
今回は感染対策を徹底し、安全に開催することが使命。ため込んだ気持ちを静かにではあるが、心を込めてお届けしたい。
また、絶叫するだけが熱ではないことを、この薪能で示してみたい。私たち出演者だけでなく、お客さまの胸にも静かな炎をともしてもらい、つながることができたら。

－－「伝えたい思い」とは。

〈片山〉ひと言で言うと「それでも生きています」ということ。私たちは悲しいこと、つらいこと、うれしいことを舞台上で表現するわけだが、いろいろな喜怒哀楽がある中で「それでも生きているぞ」ということを私たちも伝えたいし、「その思い、受け取ったぞ」とお客さまからも返してもらいたい。

－－今回の演目の見どころは。

〈片山〉今回の演目はどちらも非常によく知られた曲。「橋弁慶」は、弁慶が牛若丸からこてんぱんにやっつけられながらも、どこか楽しく、男ぼれしていく物語で、そこを素直に感じてもらいたい。
対して「葵上」は名曲中の名曲。抑えたくとも抑えられない嫉妬を抱えた六条御息所が、共感を誘う。そんな自分と葛藤し、自分をぼうぜんと見詰めるような六条御息所の描写がとても美しい。後半、怖い「般若」の能面を着けて現れるが、怨念の強さと、裏腹にある女性の美しさを表現できたら。
また、内藤家旧蔵の能面の中に「泥眼」という、とても素晴らしい能面がある。もう一度着けてみたいと思っていた能面で、今回「葵上」で使用する予定。こんなことを言うと笑われるかもしれないが、長年離れていた恋人に会うような気持ち。
能の楽しみ方として、弁慶でもいい、牛若丸でもいい、五条大橋の欄干でもいい。何かになったつもりで「今つぶやくとしたらどんなことだろう」と参加して見てもらうのが、楽しむこつ。

－－２００２年から続く「こども能プログラム」として、今年は地元の子ども５人が出演する。

〈片山〉このコロナ禍で一番心配し、気掛かりでもあったのが、この子どもたち。果たしてつながっていくだろうか、１年も放っておいたらどうなるのだろうと思っていたが、そんな疑義は、きのうの稽古で氷解した。
みんなすごくけなげに、一生懸命に自分たちでつないでくれていた。とてもうれしかったし、この取り組みに関わらせてもらっていることを改めて誇りに感じた。
こういう取り組みは本当に尊いことであり、同時にもろい部分でもある。この大切な宝物が次の世代に継承されていくことを願っている。
〈福田〉このプログラムは、プロの公演に出演することをゴールにしているため、一般的なお稽古事とは少し違う。今回出演する子どもたちは第２世代、第３世代。上の世代から下の世代へ、自然に次の世代へとつなげていくことができている。

－－会場を、例年の城山（延岡城跡二の丸広場）から延岡総合文化センター大ホールに変更。経緯は。

〈福田〉例年１０００人以上の市民ボランティアが１カ月以上かけて舞台を造り上げる。そのプロセスを大切にしてきたが、新型コロナウイルスの感染リスクを考えた時、その作業が難しくなった。
私たちにとっても、九郎右衛門先生にとっても、お客さまにとっても、今回は満足できる形ではないかもしれないが、これから先、この薪能をつないでいくために冷静に判断した。

〈松下〉感染リスクを考え、できる方法を何度も検討した結果の選択。昨年は１年延期となり、今年開催しないと僕ら実行委員会も厳しくなるのではという思いもあった。

〈酒井〉１９９７年にスタートしたが、当時２０代、３０代だった実行委員会メンバーも５０代、６０代、７０代となり高齢化している。この２５年間、市民の皆さんからご協力いただきながら何とかボランティアで続けてきたが、２年続けて開催できないとなると、モチベーションや財政面で維持が難しくなると懸念していた。

－－今回は屋内での公演。どういう演出が考えられているのか。

〈福田〉薪ではなく、ろうそくに火をともす「ろうそく能」になる。市民活動団体「彩（いろどり）の会」を中心とした灯籠の設置など、城山と変わらないような雰囲気づくりに取り組みたい。

〈片山〉現在検討中だが、背景に雰囲気を持たせたい。ろうそくに映えるような演出も考えている。

◆ここ見て、聞いて、楽しんで－能は、動きも言葉もかっこいい
　延岡市立東小学校６年生川﨑将宏さん

　演目の一つ「橋弁慶」に武蔵坊弁慶の従者役で出演します。

　薪能に出演していた姉を見て、「自分もやってみたい。かっこいい」と２年前から始めました。昨年は中止だったので、今年が初舞台です。

　今回、初めて片山九郎右衛門先生と向き合っての稽古で少し緊張もしましたが、優しく分かりやすく教えていただき、勉強になりました。教わったことを家で自分なりに稽古し、本番で完璧にできるようにしたいです。

　能の動き、言葉一つ一つがかっこいいと思います。本番では登場して一番最初に発する一言を、見ている人に力強いものとして受け取ってほしいです。できるだけ多くの人に見ていただき、「また見たい」と思ってもらえるような舞台にしたいです。