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巨典の−−故郷は遠きにありて思うもの(20)

本紙掲載日:2022-10-01
8面

お菓子大好きな少女がパティシエールに−高千穂町出身・熊埜御堂令那さん

◆福岡市早良区西新・焼き菓子店「くまのみ堂」
 スイーツの激戦区で独立して5年、素材はふるさとから取り寄せて

 お菓子が大好きな少女が、高千穂町にいました。当時、少女にとってお菓子は、買う物ではなく近所の家からもらう物、だったそうです。地域の子どもは地域で育てる岩戸地区では、それが普通だったようで一年中、ハロウィーンのように、お菓子をご近所からもらっていたと笑います。

 少女はやがて、洋菓子のティラミスやミルフィーユなどに強い憧れを持つようになります。しかし、近所にはそのようなお菓子は売っていませんでした。少女は近所のおばちゃんに手ほどきを受けて、自分でお菓子を作るようになりました。そして今は、お菓子屋さんを経営しています。その少女は、高千穂町岩戸出身の熊埜御堂令那さんです。

 熊埜御堂さんは高千穂高校を卒業後、中村調理師専門学校の製菓コースへと進みます。卒業後、パティシエール(女性ケーキ職人)として、福岡のレストランや結婚式場、パン屋さんなどで腕を磨きます。職場や先輩たちに恵まれて、いろんな経験をさせてもらい有意義な毎日だったと話します。

 職人としての仕事の面白さは日々感じていましたが、仕事にのめり込みすぎて働きづめだったそうです。忙しさの余り、オーブンの温度設定を間違えてパンをすべて焦がしたこともあったと言います。

 その後、自分の好きなお菓子を、自分のペースで作るために独立。スイーツの激戦区・福岡市早良区西新で「焼菓子店くまのみ堂」を経営しています。この9月で丸5年を迎えました。今やSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などでも評判の人気店に成長しています。

 おいしさの秘密を尋ねると、それは、ふるさとの素材にもあると言います。ふるさとが大好きな熊埜御堂さんは、高千穂町産の栗、米粉、ブルーベリー、五ケ瀬町産の紅茶などを取り寄せて使っています。

 理由は、おいしいから。初めて福岡に来た時、スーパーで売られていた野菜の味に深みがないことに驚いたそうです。そして、こんにゃくに臭みがあるなど、高千穂で当たり前のように食べていた物がいかにおいしく、尊いものだったかをしっかりと感じることができたと言います。ふるさとが、彼女の味覚も育んだのでしょうね。

 「高千穂を芸能人に例えると誰ですか?」の意地悪な質問をすると、「美輪明宏さん」という意外な答えが返ってきました。神秘的な存在感と生命力、この2点がふるさととオーバーラップするそうです。「神々のふるさと高千穂町」をうまくイメージした回答だと思った次第です。

 高千穂の、ゆっくり、優しい人たちが大好き、そして「がまだしちょるね?(頑張ってる?)」という方言が大のお気に入りという熊埜御堂さん。きょうもふるさとを思いつつ、がまだしながらおいしいお菓子を作って、福岡の人たちを笑顔にしています。

 焼菓子店くまのみ堂の営業時間は午前11時〜午後6時。水曜日定休。

         ▽         ▽

 台風14号の被害を受けた皆さまに心からお見舞い申し上げます。福岡在住の県北出身者一同も心を痛めております。皆さま、力をお落としのことと思いますが、どうか、心を一つにして頑張ってください。一日も早い復旧をお祈りしています。

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