巨典の－－故郷は遠きにありて思うもの（２２）

本紙掲載日：2022-12-14

8面

ポジティブコンテンツで人を元気に

◆混乱と悲しみの９・１１－ニューヨークで取材。延岡出身髙橋康徳さん
　現地で女性に問い掛けられて結論・ネットテレビ局－ウテレビジョンを開設

　２００１年９月１１日、火曜日の朝。アメリカ合衆国で旅客機４機がハイジャック、ワールドトレードセンターなどへのテロ攻撃が行われ、日本人２４人を含む２９７７人の尊い命が失われました。

　その取材でニューヨークに派遣されたのが、延岡出身で当時、福岡のテレビ西日本に勤務していた髙橋康徳さん（５０）です。

　髙橋さんは延岡高校から広島大学へ進み、１９９６年から報道記者として活躍。８年間で３０００本を超えるニュースを取材してきました。優秀な報道記者であった髙橋さんに白羽の矢が立っての派遣だったのです。

　混乱と悲しみの現場で、髙橋さんはジェシカさんというアメリカ人女性に出会い、インタビューを試みました。彼女はテロの前日、結婚記念日を祝ったばかり。そしてその翌日、ご主人はテロに巻きこまれたのです。

　ジェシカさんは、気丈にも自分の思いを話してくれました。「もしかしたら、あなたの人生もきょう終わるかもしれないわよ。もしあなたの人生がきょう終わると思ったら、あなたは胸を張って死ねますか？　そのことを考えてもらいたい、そしてあなたに伝えてもらいたいの」

　髙橋さんはこの問いかけに即答できずに、約２年間もその問いを心の中で反すうし続けたそうです。そして、「ポジティブコンテンツ（人を元気にする情報内容）で、もっともっと人の背中を押してあげるべきだ！」という答えにたどり着いたのでした。

　テレビ局に辞表を提出して、サラリーマン時代に奥さまが大切に積み立ててくれた貯金を基に、企業の価値を発信するインターネットテレビ局「株式会社カウテレビジョン」を福岡市に興しました。しかし、当初は社員研修の予算にも困るほどの懐事情。そこで、延岡市平原町の実家などに社員を招待し、髙橋さんのご両親のもてなしを受けながら研修を行っていたそうです。

　ご両親の協力もあって、その後、会社は急成長します。福岡、東京をはじめアジアで活躍する日本人の成功社長１３３人にインタビューを行い、その番組をインターネットで配信、月間１５万ものアクセスを得るほどに成長しました。

　加えて福岡の各企業からの厚い信頼も寄せられ、２００５年に福岡ビジネスプランコンテスト大賞、１０年には九州アントレプレナー大賞を受賞、今や福岡で注目される経営者の一人となっています。

　そして新しく手掛けたのが、延岡市役所と取り組む「延岡リモートインターン＆観光ツアー」です。福岡、東京などの大学生に延岡の企業や地域の魅力をオンラインで紹介し、延岡で働く魅力を感じてもらおうという取り組みです。コロナ禍でリアルなツアーはまだ実現していませんが、この取り組みを通して今後、延岡にさらに優秀な人材が集まっていくのかもしれません。

　さて、延岡愛にあふれた髙橋社長に、故郷の若者たちへのメッセージを尋ねると、「人生は、出会いと決断で８割が決まります、私の人生もまさにそうでした。だからこそ、延岡に貢献するためにも外の世界を知ってほしい。一方で延岡生まれというルーツも大切にしてください」とのことでした。

　ふるさと延岡のことを話す時の髙橋社長の笑顔は、まるで五ケ瀬川に帰ってきた若アユの銀鱗のようにキラキラと輝いていたのがとても印象的でした。実に頼もしい、ふるさと応援団の一人に出会えました。