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延岡の伝統−天下一薪能

本紙掲載日:2023-10-09
1面
能「鞍馬天狗」。子方で牛若丸役を演じた友清茉耶さん(右)と、大天狗役の片山さん(7日夜、延岡城址二の丸広場)

子方も大活躍、城山の石垣背景に

 「第26回のべおか天下一薪能(てんがいちたきぎのう)」が7日夜、延岡市の延岡城址(し)二の丸広場で行われた。ライトアップされた「千人殺し」の石垣を背景に、観世流能楽師シテ方の片山九郎右衛門さんらが熱演。県内外から約800人が訪れ、かがり火がともる幽玄の世界を堪能した。NPO法人のべおか天下一市民交流機構(松下宏理事長)など主催。(後日、写真特集)

 2006年以来2度目の公演となった能「井筒(いづつ)」は、帰らぬ夫(在原業平=ありわらのなりひら=)を待ち続ける妻(紀有常=きのありつね=の娘)の霊を描いた曲で、世阿弥の夢幻能の傑作。夫の形見を身に着けた妻の霊が井戸に自らの姿を映しながら昔を回想するさまを、片山さんが静かに切なく舞った。

 02年以来3度目となった能「鞍馬天狗(くらまてんぐ)」は、後に源義経となる牛若丸が大天狗に出会い、兵法を伝授してもらう曲。同薪能では例年、「こども能楽プロジェクト」の小中学生が出演。今回は花見の稚児役(子方)として12人が舞台に立った。

 このうち、延岡小5年の友清茉耶さんが牛若丸役を務めた。地元の子どもが牛若丸を演じるのは3度目の公演にして初。友清さんは片山さんが演じる大天狗と絆を深めていくさまを見事に演じた。

 大蔵流狂言師の茂山千五郎さんらによる狂言「千鳥(ちどり)」では、あるじから酒を買ってくるよう命じられた太郎冠者と酒屋の必死の駆け引きが会場の笑いを誘った。

 同薪能では例年、延岡市所蔵の内藤家旧蔵の能面が使用される。今回は「井筒」の妻の霊役に「小面(こおもて)」、「鞍馬天狗」の大天狗役に「大べし見(おおべしみ)」が使用された。

 片山さんは上演後、「子どもたちは真っすぐに演じてくれた。特に、牛若丸を演じた友清さんは真っすぐな目を向けてくれていた。それに支えられた」と振り返った。

 友清さんは「緊張したけれど、たくさん練習したなぎなたをうまく振ることができてうれしかった。何度も出演していて思い出のある薪能がこれからも続いてほしい」と話した。

 宮崎市から訪れた美馬朔埜(さくや)さん(15)は「狂言を見たことはあったが能は初めて。言葉は分からなかったけれど(演者の)表情や声の抑揚が面白かった。野外なのに子どもの声も響いていてすごかった」。

 都城市から訪れた永野乃莉子さん(40)は「市民一体となって古典芸能に参加していて素晴らしい。迫力があってお面が生きているようだった。衣装も夜に映えていた」。

 ひ孫が花見の稚児役で出演した山本昭也さん(91)は「しっかりと腕を広げて、上手にやっていたと思う。牛若丸役の子どもの演技も素晴らしかった」と話した。

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