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牛に良し人に良し環境に良し

本紙掲載日:2023-10-11
1面
伊藤さん(左)に放牧のポイントを教える岩田さん
集落の中を規律正しく歩き、牛舎へ戻る牛たち

岩田篤徳さん−日之影・中尾集落

◆放牧で餌代ほぼゼロ−省力・低コストの飼育法

 「牛に良し、人に良し、環境に良し」とほほ笑むのは、日之影町岩井川の中尾集落で放牧による牛の繁殖を営む岩田篤徳さん(72)。ロシアウクライナ情勢や円安に伴う物価高騰の中、〃餌代ほぼゼロ〃のユニークな経営が注目を集めている。

 岩田さんは宮崎大学農学部獣医学科卒。滋賀県の農業協同組合に6年間勤めた後、28歳で故郷の中尾集落へ帰郷した。

 実家は代々、役牛を2頭ほど飼養する農家だったが、約50年前に父が増頭して繁殖経営をスタート。Uターン就職した西臼杵郡畜産農業協同組合連合会(1994年にJA高千穂地区へ移管)を55歳で退職し、2005年に放牧を始めた。

 牛舎に隣接するパドック(運動場)で伸びやかに過ごす牛を見て、「外に出していた方が健やかに育つと思った」と岩田さん。格安で借りている耕作放棄地を切り開き、10年かけて9・7ヘクタールの放牧地に生まれ変わらせた。

◇手間6割、コスト7割

 放牧されているのは、現在飼養している33頭のうち子牛を除く20頭で、期間は毎年4〜11月としている。

 午前8時半に牛舎を開けると、牛たちは自発的に人が住まなくなった集落の坂道を歩いて放牧地へ。牧草を食べ、ひなたぼっこを楽しむなど自由に過ごし、午後3時になると〃集団下校〃(岩田さん)する。

 いわば、思いつきから始まった放牧だが、取り組むうちにさまざまなメリットが表れた。

 主食の牧草は勝手に生えてくるため餌代が削減できるほか、ふん尿処理や削蹄作業の労力が大幅に軽減。牛のストレスがなくなり、健康状態がより良くなることで種付けの成功率や生まれてくる子牛の生存率も向上したという。

 岩田さんによると、通常の繁殖経営に比べて手間6割、コスト7割ほどの省力化を感じており、「ほとんどを輸入に頼る配合飼料を使わないため、安定した経営が実現できることも魅力の一つ。『持続可能』の観点からも最高の飼育法だと思います」と目を細めていた。

◇北海道から研修生

 岩田さんは9日から3日間、北海道農業専門学校に通う伊藤克起さん(19)=北海道十勝郡=の農業研修を受け入れた。

 国の農業関係育成研修支援事業を活用して訪れたという伊藤さんは、実家が酪農農家。すでに兄が承継していることから、幼い頃に興味のあった肉牛の放牧飼育をなりわいとし、兄との協同経営を目標にしている。

 多方面から注目を浴びる岩田さんをテレビで知り、インターネットで情報を収集。「九州と北海道はさまざまな面で真逆と言えるほど異なり、そういう場所で放牧に取り組む岩田さんの飼育法を学ぶことは必ず自分の力になる」と、研修の受け入れを熱望した。

 期間中は常に行動を共にし、仕事を見て学びながら放牧のポイントや経営観などを吸収。このうち10日午後は、放牧地で牛が食べない草の除草作業に汗を流し、牛舎へ戻る牛がはぐれないよう最後尾で見守った。

 伊藤さんは「肉牛は濃厚飼料をどんどん与えて太らせるというイメージでしたが、牧草だけでも大きく成長している牛たちを見て考えが変わりました。北海道には豊かな自然と広大な土地があるので、教わったことを生かして立派な肉牛を育てたい」とにっこり。

 岩田さんはうれしそうにはにかみ、「間違いなく素晴らしい牛飼いになる」と太鼓判を押した。

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