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東京五輪バド日本代表に帯同

本紙掲載日:2021-09-10
8面

九州保健福祉大学講師・神田潤一さん

◆トレーナーとして選手サポート−重圧に耐えた選手に「お疲れさま」

 延岡市吉野町の九州保健福祉大学社会福祉学部スポーツ健康福祉学科で教壇に立つ神田潤一講師(36)が、東京五輪バドミントン競技(7月24日〜8月2日)に日本代表のトレーナーとして帯同した。五輪での経験や今後について話を聞いた。


◇雰囲気、疲労感から感じた「特別な大会」
――東京五輪への帯同が決まったのはいつごろでしたか。その時の気持ちは。

候補には挙がっていましたが、実際に帯同が決まったのは五輪開幕の1カ月ほど前でした。
私自身、正直、特別な感情とかはありませんでした。恐らく普段、どの合宿や大会に帯同する時もトレーナーとして冷静にいられるように、同じ気持ちで仕事をしようと心掛けているせいかもしれません。
ただ、大会中の選手の様子や会場の雰囲気、終わってからの疲労感を振り返ると「特別な大会だったな」と感じています。貴重な経験ができて良かったです。

――今回、選手団としてバドミントン日本代表のトレーナーは神田さん一人でした。実際の活動としてどのようなことをされましたか。

私の仕事は主に、試合前後のサポートと治療になります。もちろん選手によってサポートの内容は違いますが、試合前後はマッサージやストレッチング、テーピング、アイシングなどを行います。治療は基本的に宿舎に戻ってから、疲労回復やけがの回復を目的に、マッサージやはり治療、電気治療などをしました。
試合中、けがが発生するとバドミントンでは基本的に大会ドクターが処置するので、トレーナーが対応することはほとんどありません。今回は大会会場に入ることができるトレーナーは私一人だったため、ほとんどの時間をウオーミングアップコートで過ごし、試合前後の選手をサポートしつつ、設置されているモニターで試合中の選手の動きを確認していました。実際に会場で直接試合を見ることができたのは3試合ほどでした。

◇コロナ禍の開催、複雑な気持ちも
――初めての五輪の舞台はいかがでしたか。

正直に話すと、コロナ禍という非常に難しい状況での開催だったので、複雑な気持ちがありました。選手をそばで見てきて、オリンピックに懸けてきた思いや覚悟を知っているので、「開催できて良かった」という気持ちと、コロナ禍で苦しんでいる人や反対している人のことを考えると、「開催して良かったのかな」という気持ちがありました。
バドミントン日本代表は、これまでの成績から、今までの大会以上に大きな期待をされていました。選手に対していろんなプレッシャーが掛かっていることは、はた目からも分かりましたし、この重圧がある意味「オリンピックなんだ」と感じる要因になったと思います。結果として混合ダブルスの銅メダル一つ。周囲の期待からすると残念な結果でしたし、バドミントン日本代表チームとしても悔しい気持ちが大きかったと思います。結果論ですが、自国開催だからこそ感じるプレッシャーや、コロナ禍という特殊な状況での開催から、選手にとって心の底から集中できる環境ではなかったのかなと思います。
終わった時には、いろんな重圧に耐えて戦ってきた選手に対して、心の底から「お疲れさま」と思いましたし、まずは「心と体を休めてほしい」と思いました。トレーナーとしては、大きなけがもなく終わったのは良かったですし、ほっとした気持ちは強かったですね。
このような貴重な経験ができたのは、長期にわたる帯同を許可してくださった理事長をはじめ、大学関係者の理解あってのものなので、本当に感謝しています。その分、経験したことは、大学と学生に還元していくことが私の使命だと思います。

◇経験伝え、学生に還元
――東京五輪での経験を学生にはどのように還元していく予定ですか。

普段の指導からですが、私自身の経験を伝える時はなるべくそのまま話をしたり、実践したりして伝えています。あくまで私の経験としては「こういうことがあって、このように対処した」ということを伝えるようにして、疑似体験ができるようにしています。
トレーナーとしては私の型にはめるのではなく、私の経験は一つの例として、学生には自分自身で自由に考え、行動してもらいたいです。そして、自由な発想から生まれたトレーニングやテーピングの新たな方法を、逆に学生から学ぶことがあっても面白いなと思っています。

――九保大でトレーナーについて学ぶ学生は、普段どのような活動をしていますか。

私が2015年に大学に着任してから創設した「アスレティックトレーニング部」という部活動を中心に活動しています。現在、1〜4年生30人が在籍しており、学内外の約20チームの運動部でトレーナーとして活動することが中心になっています。
具体的な活動内容としては、トレーニング指導やウオーミングアップ指導、テーピング、救急対応などです。トレーナーと言ってもまだ学生なので、できないことが多いですが、そこは各部活動の顧問の先生方の理解があって活動させてもらっていますので、非常に感謝しています。授業ももちろん大事ですが、実際の経験によって、知識の深まりも変わってくるので、結果として授業に取り組む姿勢が変わります。現場でトレーナー活動をする学生には「プロとしての心構えを持つように」と指導しています。
私としては単に資格を取るだけではなく、それを現場で実践できるような力を一番身に付けてほしいと思って指導しています。そのためにも、これからも学生になるべく多くの経験ができる場を、たくさんつくっていきたいです。

――教え子にはどんなトレーナーになってほしいですか。

「この人がいれば安心する」「この人に任せておけば大丈夫」と誰からも信頼されるようなトレーナーになってほしいです。現在、教え子の中にはJリーグの大分トリニータ、トップリーグのチームであるHONDA男子ソフトボール部でトレーナーとして活躍している卒業生もいます。実際に教え子が社会に出てトレーナーとして活躍している姿は教員としてうれしいものです。
ただ、実は私としては教え子みんなにトレーナーになってほしいとは思っていません。私が所属する学科では中学、高校の保健体育の教員免許が取得できます。トレーナーと保健体育教員の仕事内容は似たところも多く、例えばトレーニング指導やけがに対応する場面は、学校現場でも必要なことだと思います。
また、コミュニケーション能力を高めることもでき、1対1から、多い時は100人ぐらいの前で話をして、指導する場面もあります。人前で話すことが苦手な学生も活動を通して自然に話せるようになっていきます。これらの活動はトレーナー、保健体育教員だけではなく、一般企業に就職してからも生きてくるものだと思います。
私はトレーナーの専門家なので、教育の手段としてトレーナー教育を行っています。できればトレーナー教育を通じて、これから社会に出ても活躍する学生に、少しでもプラスになることができればと思います。そのためにも私自身も学生に負けないように学び、経験して、能力を高めていきたいです。

■プロフィル(かんだ・じゅんいち)滋賀県出身。
トレーナーを目指し、日本体育大学に進学。卒業後、日本鍼灸(しんきゅう)理療専門学校で鍼(はり)、灸(きゅう)、あん摩マッサージ指圧師の資格を取得した。ほかに日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、JPSUスポーツトレーナーなど多数の資格を持つ。
トレーナーとしては高校野球、大学サッカー、社会人男子ソフトボールなど、さまざまな競技で活動。現在、九州保健福祉大学でトレーナー教育に携わる一方、2013年から務めるバドミントン日本代表チームのトレーナーとして国内外の合宿や大会に帯同、代表選手のサポートを行っている。著書に「バドミントンうまく動ける体になるトレーニング」(ベースボール・マガジン社)がある。

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