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全島で避難訓練−延岡市島浦町

本紙掲載日:2021-09-25
8面

南海トラフ地震と津波を想定

 延岡市の離島、島浦町(岩谷勇区長)は22日、大地震と津波を想定した島内一斉の避難訓練を実施し、住民らは防災意識を新たにした。

 高知県室戸沖の南海トラフを震源とするマグニチュード9、市内最大震度6強の地震が発生したと想定。訓練開始を知らせる屋外放送を合図に、住民はそれぞれの自宅や学校、外出先などで身の安全を確保して、揺れが収まるのを待った。

 その後、島内に大津波警報のサイレンが響き渡ると、避難場所に指定されている最寄りの高台に続々と避難。このうち、近隣に民家が多い島野浦神社(標高15・3メートル)には、男性が足腰の弱い高齢者を支えたりしながら石段を上がっていた。

 島浦町は南海トラフ巨大地震が起きた場合、住民が多く住む西側の岸壁付近にも最大高9メートル以上の津波が押し寄せると想定されている。岩谷区長によると、2011年の東日本大震災では港内の潮位が一目で分かるほど大きく変化したという。

 津波に対する住民の危機意識は元々高く、震災時にも漁船が直ちに、沖合の影響を受けにくい水域へ一斉避難。全島避難訓練も毎年この時期、出漁が少ない大潮の日に合わせて実施している。

 ただ、住民の半数以上が70歳を超え、1人暮らしの高齢者も増加。岩谷区長は「町外の施設に入っている人も多く、誰がどこに暮らしているかは把握しているが、若い消防団員も減って、いざというときにどこまで介助できるかは分からない」と懸念している。

◆今春配備、車輪付き担架−傷病者、搬送時の負担を軽減

 避難完了後には同神社下の広場で、この春に町へ配備された2台の傷病者搬送器具がお披露目された。器具は登山者向けに開発された海外製の車輪付き担架で、前後に持ち手があるため、2人でも安定して傷病者を運ぶことが可能。タイヤはチューブ不要でパンクしない造りになっている。

 町内からの救急搬送は、傷病者を本土の浦城港などで待機する救急車まで船で運ぶか、ヘリの場合も島内の広場まで連れて行く必要がある。ただ、民家が密集し、険しい斜面も多い島独特の地形により、車が入れる路地は限られ、消防団などの人力が命綱となっている。

 このため市は、少しでも住民負担が軽減するようにと市内で初めて、島浦町のみにこの搬送器具を導入。担架部分はかご型で傷病者を固定するベルトも備えており、訓練では消防団員と住民が一緒に使い方を試しながら覚えていた。

 搬送器具を管理する市消防団南浦分団第55部の片野賢二部長は、「診療所の要請で急病人を搬送しているが、屋内から1人を担架で運び出すには最低4人集まらないと厳しい。選択肢が増えたことはありがたく、みんなで使いこなせるようにして活用したい」と話した。

◆「崩れないか心配」島野浦神社−避難路、石段などが劣化

 町内で最も多くの住民が津波から逃げると想定されているのは島野浦神社だが、地元では正面石段を含む避難路の劣化が心配されている。

 岩谷区長らによると、島浦島は地質的に岩石が多くを占め、大雨による土砂災害はほとんどないが、神社石段がある斜面の脇には戦時中に掘削して造られた防空壕(ごう)跡が3カ所並んでおり、大きな地震で内部崩落が起きる恐れがあるという。

 そのがけ面に沿って整備されている市道も重要な避難路だが、「ひとたび現場が崩れれば逃げ道がふさがれてしまい、石段も使えなくなるのではないか」と指摘。これまでに市へ補強工事などの対策を求めてきたが、神社敷地が市有地ではないこともあって実現できていないという。

 人口減と高齢化で〃共助〃も限界を迎える中、住民は「避難できる人はなるべく自力や近所に声を掛けながら、少しでも高台に逃げることが大事」との意識を共有しているが、岩谷区長は災害時に退路を断たれる不安に「地元だけでは難しい課題で、改めて何とかしてほしい」と訴えている。

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