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世界農業遺産シンポジウム−高千穂

本紙掲載日:2022-08-04
8面

アルピニスト野口健さん講演

◆被災地支援−地域力の素晴らしさ語る

 環境保全や社会貢献活動に取り組むNPO法人ピークエイド代表で、七大陸最高峰登頂を成し遂げたアルピニスト野口健さん(48)=山梨県在住=が7月24日、高千穂町で開かれた世界農業遺産高千穂郷・椎葉山地域シンポジウムで講演し、国内外の被災地支援活動から感じた地域力の素晴らしさなどを語った。主催は同地域活性協議会(会長・甲斐宗之高千穂町長)。

 シンポジウムは、同町のJA高千穂地区ゆめゆめプラザTACを主会場に諸塚村と椎葉村のサテライト会場にもオンラインで配信され、関係者ら約70人が参加した。

 野口さんは「災害を生き抜くために」をテーマに講演。2011年に発生した東日本大震災について切り出し、連日の被災中継に心を痛める中、「被災者ではない私が一緒に下を向いていても意味はない」と奮起。寒そうに体を寄せ合う被災者に寝袋を贈ったことが、社会貢献に取り組むきっかけとなったことを明かした。

 また15年には、訪問先のネパールで被災し「ヒマラヤ大震災基金」を設立。「日本であまり知られていない国の出来事なので、独り相撲にならないか不安だった」といい、国内からも多額の寄付金が寄せられたことに驚かされたという。

 被災地では、予想に反してたばこや酒類といった嗜好(しこう)品を求める人が多かったことから「定期的に足を運び、被災者と直接向き合うことが大事」と強調。一方で、向き合い続けることによる心の摩耗についても言及した。

 自身も、現地での活動に疲れ、「1カ月だけ休もう」と帰国した矢先、16年の熊本地震が発生。復興支援はとてつもなくエネルギーを使うため「同時進行はできない」と周囲へ打ち明け、3日ほど山にこもったという。

 そんな時にネパールの避難所から「日本人に恩返しがしたい」と連絡があり、野口さんは逃げていた自分を恥じつつ、車中泊の避難民にエベレストのベースキャンプを参考にしたテント村をつくる活動に着手。国境を越えたつながりや復興へ至るまでの地域力などについて説いた。

◆「神楽」テーマにディスカッションも

 この日は、「神楽」をテーマにした鞍岡祇園神社神楽保存会の秋本治さん(五ケ瀬町)、桂神楽代表の甲斐秀樹さん(諸塚村)によるディスカッションもあり、各神楽の紹介や継承問題への対策などについて意見交換。講演した野口さんもゲストとして加わり、現在の居住地に残る獅子舞文化に感動した経験や、コロナ禍で地方への移住者が増えたとの推測から「地域だけで取り組むには限界がある。都市部に住む人や若者を引き込むことが大事」と話した。

 親族が神楽の舞い手「奉仕者(ほしゃ)」という橋本美代子さん(73)=高千穂町三田井=は「神楽はどこも後継者不足だが、悲観せず他の地域の舞も見てみたいと思った。野口さんの話は当事者目線の内容でとても勉強になった」と話していた。

 世界農業遺産(GIAHS)は、伝統的な農業、農法で育まれた文化や土地景観、生物多様性などを守るため国連食糧農業機関(FAO)が認定。高千穂郷・椎葉山地域は2015年に認定を受けた。

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