コロナ禍も信じた夢追い続け

本紙掲載日：2021-07-09

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選手と談笑しながら用具を片付ける富島のマネジャー・鎌田心海さん

高校野球、１０日開幕

◆富島、唯一の３年生マネジャー鎌田さん

　第１０３回全国高校野球選手権宮崎大会の開幕を２週間後に控えた平日の夕方。富島の３年生マネジャー・鎌田心海さん（１７）は放課後、６人の後輩と分担して、練習の準備に取り掛かる。グラウンドで、７人の動きが止まる時間はない。校庭全体に緊張感あふれる練習が終わって、やっと鎌田さんの表情が緩んだ。選手と談笑しながら、用具を片付けていった。

　「昨年の３年生は夏の甲子園を失ったが、今の３年生はより長くコロナ禍の高校生活を送り、大きな影響を受けてきた。自粛期間に、公式戦の中止も。スカウトの視察などの制限があり、進路面の影響もある」と話したのは富島の濵田登監督。ともに戦うマネジャーにとっても例年に増して負担があった。

　鎌田さんがマネジャーになるきっかけは小学生の時、同校ＯＢで四つ上の兄の試合を観戦したこと。「忙しそうだけど、笑顔で楽しそうな先輩に憧れた」。思いは変わらず、高校入学と同時に入部した。

　２０１８年以降、春夏一度ずつの甲子園など県内屈指の実力校となった同校。濵田監督、中川清治コーチが磨き上げてきた強化メニューは、妥協なく心身を鍛え上げる一方、サポートするマネジャーに求められる役割も重大だ。

　鎌田さんは通学に片道約４０分の美郷町に住んでいるため、練習試合の日などは午前３時に起きることも。例年、各学年に複数のマネジャーがいるが、鎌田さんの学年は一人だった。

　「体力的にきつくて、先輩についていくのがやっと。心細かったし、何度も辞めようと思った」と今、振り返る。

　さらに負担となったのが、臨時休校や部活動の制限を余儀なくされたコロナ禍。チームで導入している栄養補助商品は月に１回学校に届き、１人ずつ成分が違う。毎日、マネジャーが選手３８人分を準備するが、部活が休みになると、その仕分けに膨大な手間がかかった。

　また、激務を果たす毎日はサイクルが回りだせば夢中で過ごせるが、ひとたび休みになった後は、生活リズムを戻すのも大変だったという。

　そんな鎌田さんを支えたのは選手と、助けてくれる家族だった。「自分が作ったおにぎりを、おいしそうに食べてくれる。ありがとうって言ってくれる。それがうれしかった」。２年生２人、１年生４人の後輩マネジャーもできた。

　補食として２升分の米をおにぎりにするのもマネジャーの日課。今春からは選手の要望を聞き、炊飯時間を昼休みから夕方に変更した。炊きたてはおいしいけど熱々。それに耐えながら、選手が練習中に食べやすいよう小分けに２００個以上を作り続けた。

　濵田監督は「よく２人ならつらさは半分、楽しさは２倍というが、鎌田さんはその逆だったと思う。半端な量ではないうちのマネジャーの仕事で、さらにコロナの状況。後輩への指導も含め一人で背負い続けてくれた」

　「点数が入った時のベンチの雰囲気が、一番好き」と言う鎌田さん。その幸せな瞬間を「この夏は、何度も味わいたい」

　コロナ禍に翻弄（ほんろう）されながら、信じた夢を諦めなかった高校生の夏が、１０日始まる。