抱え続けた思い、調べに乗せて

本紙掲載日：2021-03-11

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福島市出身の北川さん－おやこの森でピアノコンサート

◆東日本大震災から１０年

　東日本大震災から１０年を迎えるのを前に、当時福島県で被災した女性が１０日、延岡市山月町の延岡子育て支援センターおやこの森でピアノコンサートを開いた。「これまで人に話すことはほとんどなかった」という自身の体験を語り、原発事故に対する怒りや、復興道半ばにある故郷への思いをピアノの調べに乗せた。

　ピアノを演奏したのは、同市緑ケ丘に暮らす北川恭子さん（３８）。福島市飯坂町の出身で、当時は福島県内の小学校で臨時教員として働きながら、オペラ歌手のピアノ伴奏者としても活動していた。

　３月１１日。２年生の担任だった北川さんは５時間目の授業後、強い揺れに襲われた。その後、福島第一原子力発電所の事故を知る。生活圏は避難指示区域ではなかったが、当時は２８歳独身。「これから結婚したいし子どもも産みたい。もし被爆したら自分の未来はどうなるんだろう」。情報が錯綜（さくそう）する中、事故発生から約１０日後、被爆の恐怖を感じながら６年生の卒業式に出席した。

　４月から横浜市内の小学校に勤めることになっていたため、さまざまな葛藤や不安を抱えたまま故郷を離れた北川さん。働いて食べることが精いっぱいの毎日だったという。震災から４年後に結婚し、その後、夫の転勤で延岡市に移り住んだ。

　２人の子どもの出産や子育てで、ピアノに触れる時間も練習する時間もなく過ごしてきたが、今年に入り「コンサートがしたい」との気持ちが芽生えた。１０年間抱え続けてきた原発事故に対する怒りや、復興道半ばにある故郷への思いなどを吐き出し、自分の心を整理したいとの思いもあった。

　利用していたおやこの森のスタッフに伝えたところ、温かく受け止めてもらい、この日、観客２０人に囲まれての、ささやかなコンサートが実現した。

　タイトルは「音楽による幻燈」。「幻燈」は投影装置のことで、死生観を描いた宮沢賢治の童話「やまなし」から引用した。破壊的なラフマニノフ作曲の「前奏曲『鐘』」に始まり、故郷の「飯坂小唄」、宮沢賢治作曲の「星めぐりの歌」など１０曲を演奏。曲から曲へとつむがれる命のはかなさや時の移ろいが、北川さんの思いと重なり、観客の胸を打った。

　演奏後、北川さんは「この１０年間で私の人生は進みました。子どもたちも成長しています。でも廃炉作業はまだ続いています。被災体験は私のアイデンティティーの一部。それも含めて今の自分です」と語った。

　コンサート後半では、元利用者の髙山由布さん（４８）＝宮崎市＝がバイオリンで加わり、復興支援ソング「花は咲く」などを演奏した。観客も一緒に歌い、遠く被災地に心を寄せた。